Gruen
□Only WAN
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「あなたはまたこんなに散らかして…」
尻尾を振ってまとわりついてくる赤茶色の毛玉を、ウィリアムは冷たく避けた。
室内で留守番して(放置されて)いたそれは、寂しさのあまりティッシュ箱の中身を散らかしたり、革靴を5足ばかりくわえてきて部屋中に展示したりetc.
もう子どもではないというのに、どうしてこんなに悪戯ばかりするのだろう…
その時、来客を告げるチャイムが鳴った。
「わう?」
手入れが不十分なものの、ふわふわした毛がふさふさ生えている耳がピクリと動いた。ウィリアムは眉をひそめて溜め息をつく。
「お客ですよ、一応ね」
やって来たのはウィリアムと利害を異にする、はっきり言って敵対関係のセバスチャンとその主人のシエルである。
「お待ちしてはおりませんでしたが、約束通りのご訪問ですから、こちらも段取りは整えてあります」
「それは恐縮です。こちらとしても、長居は慎んでご遠慮したい気分ですので」
興奮のあまりダイブしてくるそれを片手でハタき落とすセバスチャンは、あくまで執事なスマイルを崩さない。が、ウィリアムとの間に水面下で散らし合わされる火花は容易に見て取れる。
「…ウィリアムさん、あれはあなたのものですか?」
「違います」
ウィリアムはきっぱり言い放つ。
「一時預かっているだけです。まったく…勤務時間外に動物の世話など、サービス残業よりタチが悪い」
「なるほど。それにしても何とも悪趣味な毛色ですね…」
「お、レトリバーか」
「いえ坊ちゃん、お言葉ですがこれはどう見てもそのような大型犬では…」
「けっこう態度がデカイけど、犬はそれくらいでいいよな。ほら、取って来ーい」
シエルは、しばし少年らしくそれと戯れる。昔飼っていたという黒犬とは似ても似つかないのだが。それの方はあまり乗り気でない様子で、何度か噛み付いていた。
「お、こいつぅ。やったな」
何だかんだと言いながら、楽しそうに庭を一緒に駆け回る。
「私の坊ちゃんが…」
セバスチャンは苦虫を噛み潰したような顔で、ウィリアムは解放されてスッキリした気分で用件を事務的に速やかにとっとと済ませた。
「では、これで失礼します。金輪際、お手間はかけませんので」
「ぜひそう願いたいものですね」
依然、犬と戯れていたシエルはセバスチャンに呼ばれてしぶしぶ帰り支度をする。
「坊ちゃんの教育によろしくないんですよ」
ぺしっっ
馬車の際までやって来たそれを、セバスチャンの手のひらが一閃する。
「きゃぅーん」
悲鳴を上げるのも素知らぬ顔で、二人は帰って行った。
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