Gruen

□DREAMS GO BY CONTRARIES.‐THE NIGHTMARE.‐
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―このアタシが同種族に。しかも同種族の眼前で公開処刑されるなんて。ああ皆々様お揃いで。ホラ足首手首はこんなにぶっとい釘で固定されて。嗚呼これは夢?夢なら早く醒めて、なんてほざくと思った?このアタシが。んっふ。ばあか。んふふふ。人間界において大量無差別殺人という大罪を犯した死神グレル・サトクリフ。勤務中に。死亡者リストも携えず。路地裏で。群衆の中で。病院で。住宅で。死神は血液に、餓えていた。嗜虐心の赴くままに無防備な皮膚骨肉を斬り刻んだ。それは人間界の掟で大英帝国庶民に裁かれることはなく死神界の掟で裁かれた。それはかのジーザスの如く磔刑にされ。その両手首手足の傷坑から紅い液体が次々に溢れ。剥き出しの草木の生えぬ地面の上に滴り落ちて。じわりと染み込む。嗚呼。愛しいこの母なる大地にもうこの足を付けることはできないのだと。何とも言えぬ脱力感に身を任せていた。最初は脱力すればするほど食い込み傷孔を広げ死神を苦しませたその両手首手足の太い釘。今となっては感覚が全くない。現実であることを物語らせていたそれが。眼前にずらりと並ぶ血色の悪い死神の白人兵の群を遠目に臨み。その死の兵達はこちらにその重い鉄の凶器をザッと構えてそれを死神に向けてしかと狙い据え。架上の死神はそれをしかと見据え。悪事を働いたという実感は微塵にもない。生命を消除することに、慣れてしまったから。命を尊ぶ寸分の慈悲の気持など疾うの大昔に消印を押してしまった。死神界と人間界の間での交誼などは一切無く。治外法権で裁かれた結果だ。『最期に言いたいことはないか。許しを乞えば助けてやる。今ならまだ間に合うぞ。ただし其処から自ら降り地に脚を付け跪いて醜くねだることができたら、の話だがな』スピーカーが残酷に喋る。その、死神の自尊心を侮辱し嘲笑う音は遥か彼方から響いてくるように思える。死神の意識は遠ざかっていくことはない。グレル・サトクリフはっきりとした意識で。その遠方の見えない姿を一瞥した。その姿の傍らにいるであろう鬼畜上司の姿も。―慈悲を乞えですって?このアタシに。あはは。死を前にした奴は誰だって動かされるけど。そこまでどチキンでどヘタレだと思った?このアタシを。それとも。「我々に自由を」みたいな被植民化されて反乱起こした土地の民族の首領の最期DEATHみたいなかっこつけたことをがなり叫び哀願するとでも思った?うふふ。笑わせてくれるわネ。こっちはコレを覚悟してまでヤりまくったってのに。ああ待っていなさい。今にその間抜けにガン首並べてちゃちなチャカ携えてる汚れた愚かな面々に見せつけてアゲル。アンタらが待ちに待ち焦がれている光景を。この架上で。アタシの潔く美しく激しく。薔薇の花弁の如く散っていく姿を―。死神はただ無言で。双眸を鎖した。



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