Gruen
□北極星
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現在の時刻、23時34分。
あともう少しで日付が変わるというのに、グレルと葬儀屋は既に静まり返った街の中を歩いていた。
理由は、突然葬儀屋が出掛けようと言い出したためだ。
「葬儀屋から外に行こうなんて…もしかして明日は台風でも来るのかしら!?」
「ひどいねぇ…小生だって外に出たい時ぐらいあるのさぁ♪」
特に今夜みたいな時はね、と続ける葬儀屋。
(何か特別な事でもあったかしら?)
考えながらとりあえず付いていくグレル。
葬儀屋に手を引かれながら辿り着いたのは街から離れた小高い丘の上。すると葬儀屋はヨイショと仰向けに寝転がり、ポンポンと自分の横に来るよう促した。
「?」
いまいち葬儀屋の意図が掴めないまま横に座る。芝生の香りと、頬を撫でる夜風が心地好い。
「グレル、見てごらん。」
葬儀屋が指差す夜空に視線を向ければ、目に飛び込んできたのは空を埋め尽くさんばかりの流れ星、流れ星、流れ星……思わず息を呑む光景。光り輝く星達が雨のように二人の頭上へ降り注いでいた。
「きれい…」
あまりの美しさに簡単な言葉しか出てこない。
「流星群だよ。この時間が一番見頃だろうと思ってねぇ。喜んでくれたかぃ?」
そう問う葬儀屋にグレルは興奮気味に答える。
「えぇ…!!もちろんヨ!!こんなに綺麗な流星群、初めて見たワ!!」
うっとりと空を眺めるグレル。すると葬儀屋はグレルの肩を掴むとそのまま芝生に押し倒した。
「ちょっ…葬儀屋?」
「なんだぃ?」
急に押し倒されてグレルは真っ赤に頬を染める。
「ほ、星…見ないの…?」
「見てるよ。君の瞳に映った星をね。」
「!!」
カァとますます顔に熱が集まるのを感じるグレル。
「うん、君のペリドットの瞳に流星群が映り込んで、本物の宝石みたいだ。」
そう言い、葬儀屋の指がグレルの前髪を優しくかき揚げる。
「綺麗だよ、グレル。」
「〜〜!!」
甘い言葉のせいでますます顔に熱が集まってくるのを感じる。
もぉ!!アタシ、やられっぱなしじゃないの!!
どうにか一泡ふかせたくて、ある方法を思い付く。
先程葬儀屋がやったように、彼の前髪を片手でかき揚げると、グレルと同じペリドットの瞳が露になる。ゆっくりと、その2つの宝石を覗きこむようにして顔を近付け……
「……グレル?」
呼び掛けに答えず、不意に彼の唇を塞いだ。
その行動が予想外だったのか、葬儀屋の心臓が一度、強く脈打った。
しばらく甘い唇をお互い味わい、チュッと軽くリップ音をたてて離れた。
「これは…一本取られたねぇ〜。」
自分の目を手で覆いながら笑う葬儀屋の下で、してやったり、とグレルも笑った。
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