Gruen

□Erinnerung〜記憶〜
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(元気のいい子だねぇ)


死神学校のとある分校の小学課程では、折しも球技大会だか対抗戦だかが催されていた。


ゲームが始まった頃はおとなしやかだったのに、徐々にテンションを上げてきて、今では敵陣に攻め込んで点取り屋になっている一人の少年。

死神は人間のように重力に縛られることがないが、この少年はとびきり身軽に、飛ぶように跳ねる。だから、誰も追い付けない。

ボール扱いに秀でているというより、そんな身のこなしで得点を続けている。



(ルールは詳しく知らないみたいだねぇ。ほぉら、また動きすぎてファウルだよ……ヒッヒ……)



首を覆う程度に伸びた赤い髪をうるさそうに掻き上げるたび、細くて白い腕がしなやかにうごめく。



(見飽きないねぇ)






死神界の王都から遠く離れた、さびれた辺境の町。

彼が生まれ育った王都とはまったく異なる環境に出向いてくるのは気分転換になる。まして、未開発で未発達なこのエリアは、彼の好奇心をくすぐった。



死神の任務から身を引いたとはいえ、次に何をする心積もりもない。そこで、さし当たって、持て余す時間を死神大王に切り売りすることにした。


現役当時は彼より上官がいたし、淡々とこなすべき任務もたくさんあった。

だが、今は違う。

昔馴染みで血縁もある大王と、個人的に取引した上でのことだ。王都の統括で多忙を極める大王の代理として、彼は全権を委託されて、この地にやって来た。



「辺境の死神学校で不穏な事件が起こっているというんだ。お前の目で真相を確かめて来てくれ」



もちろん、相応の対価は約束してある。




(名残惜しいけど、所期の目的を先に片付けるとしようか)


彼は大儀そうに、だが無駄のない動きで立ち上がって歩き出した。









町外れにぽつんと建っている、古びて垢抜けない家。


「よぅグレル、帰ったか」


辺境種族の典型のような異形の保護者が声をかける。

ごく幼い頃に、自分とは血縁がないと聞かされた。だから、どこも似ていないのだと。

素性の知れないお前を見つけたので気まぐれで育てているのだ、と言われた。


「何だ、いたの」


ふらりと人間界に降りては矮小な悪だくみをしているのが常なのに。


「相変わらず、女の子みたいな顔だなあ」


「放っといて」


顔なんて……周囲から飛びぬけているせいで悪目立ちするだけなのに。


「あーあ、シケたツラをしやがって。学校は面白くないか?」


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