アニメ&原作
□その死神、漂流
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暗い……
星の光も届かない
漆黒の闇の底
アタシは死んだの?
それじゃあ、死神らしく息の根を止めたまま、底の藻に絡まって、永遠の眠りに就いちゃおうかしら……
そんなことを思っていたグレルは、不意に何かに引き上げられるのを感じた。
ああ…………ダメ。
そんなコトされたら、深海で平和に暮らしている人魚姫の赤血球が、たぎりだしちゃうワ……
気が付いたらそこは、真っ青に晴れ渡った空の下だった―――
「ここ、は?」
思わずつぶやいた言葉は、近くにいた男に拾われた。
「人工呼吸してあげようと思ってたのに、起きちゃったんだねぇ」
「…アンタ……」
乗っていた船が沈む前、さんざんに死闘を繰り広げていたつもりが、実際にはヤられっぱなしだった、憎らしい神父服の男。
その男が、すぐ隣に座って自分の寝顔を見下ろしていたのだ。
わずかな隙でもあらば一矢なりとも報いてやりたいが、海に投げ出されて流れてきた自分の体は本調子ではないし、デスサイズを握る手元も狂うかもしれない。
そんな計算をするより前に、よりによって、その葬儀屋と呼ばれる男に助けられた形になっているらしいことが、グレルの神経をかき乱した。
冗談じゃないわヨ。
あんなにコテンパンにヤってくれちゃったくせに、どのツラ下げてアタシを助けてんのヨ。
見殺しにされた方が、まだマシだったワ……
「死神ですもの、息の根を止めていれば海に放り出されたって持ち堪えられるワ。わざわざアタシに手を貸すなんて、伝説の死神サマは、よほど余裕がおありの物好きみたいネ」
いまさら、こんなことを言っても仕方がないのに、憎まれ口をきいてしまう。
「喉が渇いただろう?」
グレルの言葉に直接応じるのではなく、葬儀屋は、いとも自然にビーカーに入った真水を差し出す。
身一つで砂浜に流されてきたことと、どう関連付ければ良いのかわからなかったし、出されたものをホイホイ受け取るのもシャクだったが、グレルは大人しく飲み干した。
「はぁー、生き返った気分だワ」
自覚していた以上に渇いていた喉から食道を通過して胃まで、音を立てて水が流れ込む。
「…へぇ〜」
楽しそうな目付きでじろじろと見られる。
「な、なにヨ」
「小生はね、もう何年も『目』に頼らないで生活する習慣なんだよ」
「ああ、だからメガネなしでも平気なのよネ」
「だから、きみの顔をよく知らなかったんだ。いま、初めてちゃんと近くで見たよ。水を飲んで湿った唇と、ごくごくと脈動する喉元が」
「……え」
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