位相転移

□天国で殺(アイ)して♪
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♪ちゃっちゃっちゃらら
ちゃっちゃらら〜♪



どこぞのリア充なチャラ新人とは関係ない。

これは、グレルの持ち歌のイントロである。


アイドル歌手になるという長年の夢を叶えるために田舎から上京し、「イれてくれるんならドコでもイイわ」とばかりに原宿のクレープ屋前で声をかけてきた男に誘われるままにプロダクションに入った。


銀の長髪で顔を覆ったその男は、見た目も言動も半端なく怪しくて、発声やダンスのレッスンを受けるグレルを、いつも眺めに来た。

それどころか、ハイレグなレオタードから伸びる足を撫でるくらいは可愛いもので、とても人には言えないようなことも何度となくされた。

もちろんグレルは抵抗するし、大声も上げる。

そのたびに「小生の言う通りにしたら、ディ○ニーランドに連れて行ってあげるよぉ」だの「ジャニーさんに話を付けて、事務所のタレントと君が共演できるようにしてあげる」だの、言葉巧みに丸め込んできたのだった。


そのうちにグレルも慣れてきて、(ココで大人しくしていれば、イイ条件でデビューさせてもらえるし、本当の彼氏が出来た時にまったくの未経験、っていうより箔が付くワ)と考えるようになっていた。





そんなこんなで、ようやくこぎ着けた初ステージ。プロダクションの力にものを言わせて、ヒットメーカーの作詞作曲による持ち歌を披露する機会を得たのである。


「さぁグレルちゃん、横断歩道の向こうがテレビ局だよ〜」


「わかってるわヨ!子どもじゃないんだから……あら!可愛いわんこネ」


道端の仔犬に駆け寄った時、運悪く大型トラックが暴走してきた。


「危ない!」


長い前髪とズルズルした服の社長が、あり得ないほどの反射神経でグレルをかばう。


「きゃああああああ!!」


トラックに接触したらしく、社長は額から血を流してうずくまる。


「申し訳ありません!大丈夫ですか?」


すぐに降りてきた運転手は、じゃらじゃらデコレーションを尽くした車に似合わぬ紳士的な物腰と、浅黒い肌の持ち主だったが、グレルは憤怒の形相で怒鳴りつける。


「大丈夫なわけないでショ!どこに目ェ付けて運転してんの!バカッ!」


「グレル…」


「はっ、アタシとしたことが…こんな大声を出してる姿をパパラッチされたらアイドル生命に関わるわネ」


「そう、だよ……だから、君は早くテレビ局に入るんだ。小生なら、平気だから…」


そう言いながら、前髪に血が付いて、露わになったその顔は………



「ううううそーーー!!

激烈超イケメン!!」



「お嬢さん、兄君のことは私に任せて、先にお行きなさい」


運転手がターバンを解いて応急措置を始める。


「兄…ち、違うわヨ!」


「そう、だよ…君はアイドルなんだから、仕事に遅れちゃ、いけない…」


そう言って、いつもの不気味な笑顔を作ろうとする社長の、初めて見る黄緑色の瞳に、グレルの心臓がまた跳ねる。


「えっ、ええ……わかったワ」


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