Rot U

□Rueckgewinnung〜再生?
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※ホルニヒ……My設定で、死神派遣協会本部ビルの用務係。オリキャラと見せかけて、植物を操る元盗賊の、あのキャラがモデルです。 



死神派遣協会、本部ビルの廊下に、真っ赤なハイヒールの音が軽やかに響く。

ブサイクな死神。バカな死神。若いのや、チャラいのや、いろいろひっくるめて使えない死神ども。

そんな連中にイライラしたり、傷ついたりしてきた。

そんな、耐えがたきを耐え、忍がたきを忍び続けてきた、幾星霜。

だけど、それももう終わりだ。

「はぁあい、ロニィちゃん」

「げっ。サトクリフ先輩……」

猫なで声で呼びかけると、これまで散々グレルの奇行の巻き添えを食らってきたロナルドは、とっさに本音でリアクションしてしまう。

(マズった……)

後悔しても、後の祭りだ。しかし、今日のグレルは。

「相変わらず、中身が軽そうな頭してんのネ。ま、適当にやんなさい」

意味がありそうでなさそうな言葉を一方的に投げかけて、ヒラヒラ後ろ手を振って歩き去って行く。

「何だったんだ? 今の……こえーよ……」

残されたロナルドは、しばらく固まっていたが、そんな姿が目に入るはずもない。

今のグレルは、視線はおろか意識全体が、ココではないドコかに行っちゃっていた。

(どうだっていいワ。アタシはもうすぐ、別の世界の住人になるんだから)

ひとつひとつは取るに足りない些細なことだった。その時は、そう思うことで自分を慰めるしかなかった。

けれど、今になって思い返してみると、ロクなことがなかった。

仕事はキツイし、時間は不規則だし、ことあるごとに規定違反をあげつらわれて、始末書を書かされてきた。イイ男との出会いでもあれば他のすべてがチャラになるが、美形悪魔を見つけて追いかけられるのも一時だけのこと。協会に戻ってくれば、垢抜けない死神に囲まれることになる。

(それに、今のアタシには……)

人間界には、最愛の恋人が、誰よりも強くて美しい葬儀屋がいる。「伝説」の称号を持つ彼にひとこと言ってもらえば、たいていのことは許容される。だから。

(彼と過ごす時間を削ってまで、協会で働き続ける意味なんて、ないわヨ)

そう。グレルの脳内には、「辞職」という文字が高らかに躍っていたのだ。

辞めてやる。辞職して、退職して、引退して、離脱する。

良識ある大人だから、突然出勤しなくなったりはしない。次の給料日までは何食わぬ顔で働き続けるのだ。

思い切ってしまうと、心が軽くなる。

もうすぐお別れだと思うと、始末書ひとつ書くのも丁寧にしようという気持ちになる。形式を整えるためだけのバカバカしい規則も、最後くらいは守っている姿を演じてやってもよい。いつもならカリカリ腹を立てて怒鳴っていたようなことにも、寛大でいられる。無能でイケてない後輩どもも、もう会うこともなくなると思えば勘弁してやれる。

「オサラバするのヨぉーー!」

そこだけ高らかに宣言しながら、いっそう軽快な足取りで、タイムカードに打刻して。赤い髪をひるがえして、退勤して行く。

そんなグレルを、ロナルドたち回収課員だけでなく、他の部署の死神たちも、不気味そうに、悪いことの前触れででもあるかのように見送った。




いつものように、ロンドンじゅうの怪しいものが集まるノクターン横丁商店街にある葬儀屋に向かう。

辞めると決めたら、気分はかつてないほどスッキリさっぱり。

これが世に言う、「立つ鳥、後を濁さず」とか「優秀の美を飾る」とかいう美しい姿なのだと、優越感にひたる。

いつものように葬儀屋から手厚い出迎えを受けて、うっとりホンワカと、ひとしきり過ごしてから、いよいよ本題に入る。

「ねェッ! 聞いて!」

無闇にニコニコして話し始める。いつもなら、葬儀屋の前では女優の仮面も外し、飾らない素のままの表情さえも見せるのに。

「お仕事、忙しそうネ。お手伝いするワ。したいの。何でもしちゃうわヨ!」

いつもなら、死神の仕事を終えてきたグレルをいたわる葬儀屋が勧めるままに、甘えて甘やかされて、世話を焼かれっぱなしなのに。

「今日も、回収で駆けずり回ってきたんだろぉ? 帰って来たら、気を遣わないでゆっくりしておいでよ」

赤い髪をナデナデして、ついでに肩とか背中とか首筋とかもテレテレと触り心地を楽しみながら、葬儀屋が応じる。すると。

「辞めるの」

ぽそっと、小さく、だがキッパリと言い放つ。

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