Rot U

□Provozieren〜挑む
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弊サイト的なストーリー展開における時系列を、さかのぼりました。


〈これまでのお話〉

葬グレは、何となく同居状態でイチャイチャしていますが、かろうじて一線だけは越えていない関係です。

(サイト発足から7年以上書いてきた私の葬グレの基本設定は、この一言で集約できます……笑)





彼がアタシの近くにいる。

一つ屋根の下、2人だけで夜を過ごす。ずいぶん長いこと、この生暖かい状態が続いている。

だから、オンナとしてはネ……いろいろあるのヨ。モヤモヤとか、ホワホワとか、ムラムラとか……

決めたワ。今夜は思い切って、アタシから誘ってみせるワ。

目の前にブラ下がっている獲物を、しかもテライケメンを仕留めないなんて、愛の狩人の名がすたるってものヨ。

チャンスは生かさなくちゃ!


☆ ☆ ☆


一緒に、朝まで過ごしたら、どんなかしら……いつものように寝仕度を整えてくれる葬儀屋をぼんやり見つめながら、グレルは考えていた。

「いつも悪いわネ。ベッドメイクまでさせちゃって」

「いやいや。こういうことは在宅勤務の小生がする方が、理にかなっている。きみは、たくさん魂の回収にまわって疲れてるだろぉ〜」

「ええ……足なんかパンパンよ。むくんだ足だとヒールを履くのがキツくって」

「ちょっと待ってておくれ。枕にラベンダーのミストを振りかけてから、マッサージしてあげるよ」

こんな調子で、あくまでマメに世話を焼いてくれる。

「ヒヒッ、ふくらはぎの……このへんが、張ってるねぇえ」

葬儀屋の低い体温が好きだ。グレルの肌に触れる、長くて細い指が好きだ。

「アン……気持ちイィ」

何より、葬儀屋が身にまとうオーラのようなものを感じると、居心地が良すぎるのだ。葬儀屋の冷たい唇は甘すぎて、もっと、もっと、と思わずにはいられない。一時だって、離れるのが惜しいのだ。

ふと、人間界で蔓延している脱法薬物が頭に浮かぶ。

今日も、それに蝕まれたあわれなムクロを見てきたところだ。その人間は、酩酊したまま魂が抜け出たようで、いかにも幸せそうな顔つきだった。

(あー……アタシもイカレてる……彼に酔いしれた中毒患者だワ……)

それでも良い。このまま息の根が止まるのなら、至上の幸せだ。

(なーんてネ……死んじゃったら終わりヨ。終わりにするなんて、もったいなさすぎるわネ)

朝まで一緒にいて、ただ添い寝をしたいだけなのか、それとも、それ以上の下心なり期待なり覚悟なりがあるのかと問われれば、答えられないだろう。

(だって……そんなの、火照ったオトコとオンナのムードってヤツでしょ! 予定調和じゃ面白くないワ)

心のうちで自問自答するが、実際は何も考えていないグレルだった。

細く開けた窓から、ひんやり気持ちのいい夜の風が柔らかに入ってくる。

壁にかけた時計の2本の針が、静寂の中でカチリと合わさる。

「ねぇ〜グレル〜」

静寂を破ったのは、葬儀屋の低く伸びたイントネーション。

頭の中の考えに、じかに触れられたかのような気がして、グレルは驚く。

「は、はぃいいっ!」

そんな反応も、葬儀屋の意図によるものかもしれない。

それでも、良い。この男が自分にさせたいと思うことは、何倍にもして見せてやりたい。

(その時、アナタは驚くの? それとも……喜んでくれるのかしら?)

「ヒヒッ……寒くなってきたねぇ。小生を暖めてくれるかい?」

グレルには言わせないで、自分から察して誘ってくれる。

「も、もももちろんッ! 任せてチョウダイ!」

グレルが、この誘いに勝てるはずなどない。

サイドテーブルの上にある灯りが消される。葬儀屋の服の長い袖が、グレルの髪に当たる。それだけで、グレルの肩はピクッとする。

葬儀屋が口元に笑いを刻んで見つめてくるから、グレルは固まったまま目を閉じる。

赤い髪を掻き分けて、ちょん、と唇で触れられたのは、白磁の額。

「もう寝ようかぁ」

(……それだけ?)

チラッと横目で盗み見たつもりが、視線が合ってしまう。前髪越しでも、はっきりわかる。

これは、2人の周波数が合っているからなのだろうか。それとも葬儀屋の計算なのだろうか。

(どっちでもイイわよネ)

時々、信じられない気持ちになる。大好きな、超絶美形の、この男と、こうして並んで横になるような時間を、持てるだなんて。これが、現実だなんて。

(目を覚ましたら、夢でした、なんてオチは、ないでしょうネ?)

まどろみの中、そんな埒もないことを考えていると。

「……もうちょっと、起きていておくれぇ」

そう言って微笑んだと思ったら、ねっとりした長いキスが降ってきた。


Endlos.

20160925
 

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