Silber
□休息
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「眠い…」
「このところ大忙しだったもんねぇ。お疲れ様」
「人間界が不況でも死神界は万年過剰勤務ヨ」
「不況だからこそ、さ」
ヒヒヒ…と笑いながら、葬儀屋は二人分の飲み物を運んでくる。
「カフェインを取らずに、今夜はぐっすりお休み」
1杯はいつもの紅茶。もう1杯は
「なぁに?これ」
「ホットミルクだよ。君がぐっすり眠れるように、いろいろ細工をしてあるから、お飲み♪」
「細工って…ステキね♪」
毎日、心身ともに(深読み不可)世話を焼かれているグレルは、今や葬儀屋を信じ込んでいるから、怪しむことも怖がることも不気味に思うこともない。
葬儀屋はクッキーを焼くだけでなく、料理や掃除、洗濯といった一通りの家事をこなしている。
葬儀屋の家事は、客観的に見るとかなり大雑把だ。お客を検死(イジ)る時の細やかさやデスサイズを振るう時の華麗さなど微塵も伺い知れない水準だ。
それでもグレルが文句一つ言わない…というより。むしろそんな葬儀屋の生活様式に自然にハマった感じだった。
「死神寮にいたら、給湯室を使うのにも順番待ちなんですもの。自由にキッチンが使えるってサイコー♪で、何が入ってるの?」
明らかに葬儀屋の「細工」によってミルク以外の異物が混入している。
「泣かれちゃやだもんシナモン、カルダモン」
「アンダーテイカーの声だと、またグッと響くわネ」
「この色は赤ワインだよ。ブランデーを入れるのが定番だけど、小生、あんまり好きじゃないものでね」
「寮では白ワインが流行ってたから、赤はあんまり飲んだことないのよネ」
言いながら、グレルは赤い唇で微妙に赤の混じった、傍目には正直マズそうな液体を啜る。
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