Silber
□二人芝居
1ページ/8ページ
ギイィィ…
古びた店の古びたドアが開く時の弱々しい悲鳴。
「お邪魔するわ」
昼日中とはいえ、貴婦人が供も連れずにお出ましとは珍しいことだ。
「いらっしゃぁい……お葬式のご用命ですか…?」
店の主の一種独特な声がする。決して大声ではないのに、鼓膜を直にくすぐるように響く、声。
「ええ。まだ正確な日程は決まっていないけれど」
「この間も来て下さいましたねぇ。団体さんでしたが」
「覚えていてくれて、ありがとう」
奥に通された彼女が帽子を取ると、赤い髪が広がった。長さはないものの、独特の艶が豊かさを誇示する。
「今日は特別な依頼をするから、一人で来たのよ」
「マダム・レッド…とお呼びしない方が良いですかな?今日のお召し物ですと」
いつも身に着けている赤い衣装ではなく、灰色を基調とした目立たない服装をしている。赤い髪もすっぽりと帽子で覆ってきたようだ。
「店に入ったら誰に聞かれるでもなし、構わないわよ」
葬儀屋は、無神経にも埃にまみれた棺に座るよう勧める。マダムも、ためらうことなく座った。
「思い出したのよ」
おもむろに話し始めたのは…
.