Silber

□Ein Held
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古びて軋むドアから、葬儀屋はその部屋に入った。

死神の力を使えば、ドアなど使わなくても思いのまま出入りできる。だが、今夜の彼はあえて不自由なやり方を採った。まるで、人間のように。

「お邪魔しますよ」

部屋には、病の床に伏している初老の男がいた。誰も世話をする者がいないのだろう。家具は埃にまみれ、閉じられたままの窓は、何の光も採り込むことはない。

「おお…やっと、お迎えが来たようだ」

「わかりますか、私の役割が」

「もちろんだとも。待っていたよ…少々遅すぎたがね」

死を前にして恐れることも嘆くこともなく、静かに受け入れようとする人間は希有だ。

男は痩せ衰えているものの、往時の鍛え抜かれた体躯が容易に想像できる。


「サー・ロビン。あなたの魂を審査して冥界へ送るためにやってきた死神です」

「それで…私は天国へ行くのかな?」

「それは…」


葬儀屋にしては珍しく口ごもる。

死神の「権限」はそこまで及んでいない。死に瀕した人間の魂を審査して、生きるべきか死すべきかを決定するにすぎない。その先のことは、空の上におわすという天上神の審判に委ねられているから。







「あなたの記憶を再生させてもらいますよ」

「…その鎌でズバッと斬られると、痛そうだね」

「痛みはありませんよ」

「いや…痛くて構わないよ。どうせ、もうこの体は使い物にならないのだから。それより、記憶を見られるというのは、照れくさいね」
     




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