Silber

□Trinken〜飲みもの〜
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「紅茶が好きなの?」



その朝、グレルが最初に発した言葉。



「ティーバッグじゃなくて、わざわざリーフで淹れてるのネ」


そう言って、珍しそうに朝食の用意をする葬儀屋の手元を覗き込んでくる。

そんなグレルに、葬儀屋は軽く笑って応じる。

「まぁ小生も、そんなにこだわりがあるわけじゃない。たまたま質の良い茶葉を分けてもらった時はともかく、クッキーに合う飲み物ならいいのさ」


東方からもたらされる茶葉は、一時期ブームになったものだが、その渦中では供給が需要に追い付かず、値段ばかりが吊り上がる。葬儀屋の仕事の報酬の一部として、そんなお宝が持ち込まれることもあった。


「死神界では、メンザ(食堂)で出てくるヤツも、寮で下(後輩)が淹れてくるのも、インスタントばっかりヨ。大量にお湯を沸かしてザパッと数十杯分まとめて淹れるもんだから、香りもムードもあったもんじゃないの」


「そういえば、そうだねぇ」


彼が現役を退く直前は、ずいぶんと高い地位に就いていたため、他の死神と十把一絡げで扱われることなどなかった。もっと以前は、高貴な生まれゆえの特別待遇を受けていた。だから、グレルの話はすべてが新鮮なものに聞こえる。


「人間って、やたら紅茶の味にこだわるじゃナイ?アタシ、正直なところ違いがよくわかんないのヨ。だから、手軽なぶんティーバッグの方がいいと思ってた」


曲がりなりにも人間の執事として働いた経験があるのだから、人間の嗜好品には詳しいのかと思っていたら。



「ほぉ〜〜」


それはまた……ご主人だった人間は、ずいぶん寛大なことだ。

仕事を覚えさせて使役していたというよりも、手元に置きたくて置いていたと言った方が適切かもしれない。

それはグレルには言わないが。



「ティーバッグでも、ほら」


葬儀屋は、手近な小皿をビーカーにかぶせて見せた。貴族の屋敷で使われるようなボーン・チャイナのカップ&ソーサーでなくても、その役割さえ果たせれば充分だ。


「こうやって蓋をして2分ほど待ってごらん。びっくりするほど美味しくなるよ」



教わっていないなら、自分が教えてやればいい。初級から、順を追って、時間をかけて、極上の極みまで。



「あ★蒸らす…ってコト?」

聞き覚えがあるワ、と得意げに瞳が輝く。


「早く飲みたい、早く飲みたい、ってムラムラがピークに高まった時、極上においしくなるんだよぉ」


「紅茶をムラして焦らして、高ぶらせる……何だかステキ」



これでグレルは、紅茶の淹れ方を間違えなくなるだろう。そう考えるだけで、葬儀屋は楽しくなる。



時間をかける方が良い結果が得られる。それが、葬儀屋がたどり着いた持論だ。


若さゆえ、つい焦ってしまうグレルを見ていると、微笑ましくも目映くて、つい見入ってしまう。

その瞳の光を灯すのも、翳らせるのも、自分であればいいと思う。


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