Rot U

□Geschlossener Raum〜密閉
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〈CAUTION〉

不穏な感じですが、「モブ」タグは付きません。大事なことなので、繰り返しました。




「この部屋に来たことあるか?」

死神派遣協会ビルの片隅にある、忘れ去られたような小部屋。雑多な事務用品や、廃棄の手間さえ惜しまれて放置された書類が雑然と散らばっている。

不況知らずの年中無休な業務ゆえ、どの部署も、機能性を重視して整然としたオフィスを使っていることを思うと、ここは別の世界だ。

「この部屋で、アタシに何の用なの?」

グレルを呼び出して、ここに連れて来た死神は、特に親しいわけでもない、単なる職場の顔見知りだ。そんな男に促されて、こんな部屋に来ているなんて――――良い話であるはずがない。

後ろ手に鍵を閉められる。無機質な金属音は、ごく小さいのに鼓膜に刺さる。

「俺が言いたいことくらい、わかってるんだろ?」

低くてよく通るが、冷たい声だ。冷水を浴びせられるヴィジョンが浮かんで、グレルは己の身の上をかんがみる。

伝説と謳われる死神界の英雄が、グレルの恋人だ。ふだんは人間界で人間のまねごとをして暮らしている。出世や昇進にまるで縁のない下級の死神が手取り足取り世話を焼かれていることに対して、羨望や嫉妬といった感情を持つ者は少なくない。のみならず、誹謗中傷や非難も生まれる。その矛先は、英雄たる彼ではなく、もっぱらグレルに向けられることになる。

当人の意思にも言い分にも耳を貸すことなく、当然ながら、顔が見えない大衆と直に話す機会などないまま、無条件にグレルを悪者と見なす。

いま目の前にいる男も、そんな低俗な輩のうちの一人ということか。

「あんたは、また今日もミスをしでかした。どう考えたって、お咎めなしでは済まない数の、な」

そうだ、ミスは自分の責任だ。彼に言ったら、きっと誤魔化すなり揉み消すなりして、グレルを助けてくれる。でも、一人前の死神として、そんなふうに何もかも頼りきってしまうのは不本意だ。

こんな男の一人くらい、自分でうまくあしらってみせる。

そう思って、ここまで着いて来た。

「あんたみたいな規定違反をしまくっている死神が、たいした処罰も受けずにいられるのは何故かって、考えたんだ。あの御方に、便宜を図ってもらってるからだって結論は、簡単に出せると思わないか?」

「そういうコト言うの? アタシの恋人がアタシを大事にしすぎてるからって、アンタにとやかく言われる筋合いは」

「そんな特別扱いがまかり通るなら、俺みたいに精勤に励んでいる死神は、報われなくて迷惑するんだよ」

つまりは、逆恨みというやつか。

「はぁ? 小さい男ネー。自分の無能さをわきまえなさいヨ」

そう言ってやれば、黙らせられる。そう思ったのに。

「せめて可愛い恋人でもいたらな、って考えてしまうのも、無理ないだろ」

何を思ったか、男は自分のネクタイを緩めだす。

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