Gruen
□チェリーパイ
2ページ/6ページ
それが3時間ほど前の話である。
「つまんなかったわね。」
映画館脇の喫茶店でチェリーパイを食べながらグレルが言う。
向かいに座っている葬儀屋もその言葉に笑いながら頷いた。
「ヒッヒ・・そうだねぇ・・・確かにちょっと物足りなかったねぇ・・」
「ジャパニーズ・ホラーって分かんないわぁ・・
いったいどこが怖いって言うのかしら・・?」
グレルはフォークを口に加えたまま独り言の様に言った。
そう、2人が見たのは日本製のホラー映画だったのだ。
もともとこれと言って見たい映画がお互いに無かったので、
その場の雰囲気と「面白いですよ」という係員の勧めで決めてしまったのだが,それが失敗だった。
見始めたはいいがどこが面白いのか見当もつかない。
スクリーンに幽霊役の女性が映し出されるたびに周りから悲鳴が上がるのだが、
それも今一理解できなかった。
お陰で始まって1時間も経たないうちに
グレルはポップコーンを抱いたまま眠ってしまうし、
葬儀屋に至っては何が可笑しかったのかホラーに有るまじき勢いで大爆笑してしまい、
他の観客に多大な迷惑を掛けてしまったのである。