位相転移

□学校へ行こう★外伝
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〈まえがき〉

2010年に書いた長編小説 「学校へ行こう★」

の設定を、今更イジりたくなりました。理科教師テイカー×女子高生グレルの、学園パロディです。志望大学に合格するのが簡単すぎだろう、と自分でツッコんだ結果できた、R−17な話です。以下、キャラ紹介。

〈生徒〉
グレル・サトクリフ……日本で言えば、高校三年生。工学部でチェーンソーの操作とカスタマイズを極めるのが目標。寮生活をしている。
ドロセル・カインズ……演劇部の裏方として、衣装・大道具・小道具すべてを手作りしていた。卒業後は専門の職人を目指す予定。

〈教師〉
アンダーテイカー……伝説の非常勤講師→学園の副理事にして黒幕。
アッシュ……外国語教諭。ドロセルと「不適切な関係」にあることを知られているため、グレルとアンダーテイカーに頭が上がらない。
ウィリアム……社会科教諭。グレルの「男への初恋」(←片思い)の相手。
マダム・レッド……養護教諭。保健室に常駐。グレルの「女への初恋」(←片思い)の相手。結婚して二年、超ラブラブらしい。



秋も深まったある日。アタシは昼休みの教室でひとり唸っていた。

「うーーー〜〜〜……」

模試の結果が渡された。控えめに言って、イマイチだった。

そりゃあ、アタシ史上では前代未聞のハイスコアよ。でもネ、アタシは生まれ変わったの。こんなんじゃ満足できないの。

これまでの怠惰な日々とはオサラバして、恋に目標にフルスロットルなイカした高校生、ひいては花の大学生になるために、常に自分磨きを怠らないって誓ったんだから。要は、受験勉強をきっちりヤル、ってコトなんだけどネ。

人が変わったみたいに、ろくにヤッた経験のない勉強を始めて、日進月歩しているところヨ。研ぎ澄まされた脳細胞が灰色に輝いて、活性化していく実感もある。

なのに……結果に、結びつかない。

生まれ変わった、カスタム・ヴァージョンのハイパーなグレル・サトクリフは、向かうところ敵なし! 成績なんてウナギ上りで、志望大学の方から「ぜひとも入学して下さい」なんて言われちゃう日も近い—-―――はずだったのヨ。予定では。

なのに……この模試の結果ときたら。

おふざけで個性的なカタカナ名前の大学名を志望校記入欄に書く奴はいるケド、アタシは本気で、マジで、ガチで書き込んだ志望校。合格確率の判定は“E”……Aが最高で、Cだとボーダーラインで、Eは……事実上の、最低評価。アタシが恋のレッスンAどまりだからって、ナメられてるとしか思えない結果。いい度胸してんじゃないの。カスタム・ヴァージョンが通用しないなんて、集計するコンピューターのバグじゃないでしょうネ?!

ちなみに、アルティメット・ヴァージョンになるためには、必要な「セレモニー」をまだ済ませていないから、オンナとしては不完全な子どもなの。そこは認めるワ。彼が、卒業するまではアレもコレもお預けだって言うんですもの。アタシのことを大事に大事にしすぎてくれちゃってるせいでは、あるんだけどネ。

ウヨキョクセツ(漢字は忘れちゃった)あったのヨ。

一介の非常勤講師が、いつの間にかあれよあれよと言う間に、学園の副理事長におさまってしまったのは、ちょっと前にあった我が学園での大事件。こんな大変革、一世一代のコトと思うじゃない。アタシは人生初の彼と引き裂かれる悲劇のヒロインになるシナリオまで、頭の中で作ったのヨ。

ところが、当事者のアンダーテイカー先生は涼しい顔で言った。

『毎日とはいかないけど、理科準備室で会えるよぉお』

これはもう、空前絶後のシンデレラ・ストーリーに発展するって……期待、するじゃないの。絶対に。実際その言葉通りに先生は、こまごまと勉強の進み具合やら生活面やら気にかけてくれてケアもしてくれてた。愛の個人指導の成果をわかりやすく見せるのが、今回の模試だったのに。

日曜日にオープンキャンパスがあったり、先生の方に懐疑やら接待やらが入ったりして。何やかんやあって。

アンダーテイカー先生と、もう二週間も会えていない。

今日のディナーを一緒に、って電話があったのが二日前。

彼とお付き合いし始めて初めて持ったスマホの向こうから、「その時には模試の結果が出ているねぇ。いい報告が聞けると嬉しいよ」なーんて、魂の底までくすぐるようなバリトンのエロティック・ボイスで言われちゃったのヨ! 生で聞くのと電話越しとは、また違ったオモムキがあって、ズキュンっときちゃったわヨ!

楽しみすぎて、ドキドキがとまらなくって、徹底的にヘアケアとスキンケアとネイルケアに励んだ。もちろん、その間『試験に出る! 発音&アクセント』のCDをかけながら、時間を有効に使ったワ。

今日は、いかにアタシが、ヤレば出来る極上のイイ女かって見せつけとかなきゃイケナイ日じゃないの。

なのに、この結果……

「合わせる顔がないワーーー!!」

教室だってのに、思わず叫んじゃった。ま、どうせ周りの連中はアタシのことなんて気にやしないでショ。

クラスメイトはお子ちゃまばっかりでろくな話も通じやしない。唯一、見どころがあると認めてたドロセル・カインズは、大学じゃなくて職業訓練校に進むことが決まってるから、そっちの関連で今日は登校していない。

保健室のマダム・レッドのところにでも、ボヤキに行こうかしら……と思っていたら。

「グレル・サトクリフ、大声を出すものではありません。はた迷惑です」

「ウィル先生ッ! 今日も完璧な七三ネっ」

アタシが入学早々に目を付けたイケメン教師のウィリアム・T・スピアーズ先生。昼休みの教室に来るなんて珍しい……いいえ、運命に引き寄せられたに違いないワ!

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