位相転移

□Grell! on ×××(序)
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★ ★

「あー、今日もワイルドフラワーが満開ネ……」

辛気くさい田舎で、唯一気に入ってるお花畑。
ろくな遊び仲間なんていなかったから、暇さえあれば来ていた場所。ここなら。ここでなら、自分を解き放つことができる。

誰にも負けない、自慢の深紅のキューティクル・ヘアをたなびかせて、思う存分デスサイズを振るって、魂と共鳴させて−−−

「!!!」

不意に手を叩く音のが聞こえてきて、アタシは身構える。油断してた? アタシの美しい姿に見とれたの? それとも、技のキレを妬むヤツの闇打ち?!

「ヒッヒッヒ……」

続いて聞こえてきたのは、不気味な笑い声。
振り返った先にいたのは……

「アナタ、まさか……ひょっとして、伝説さまァ?!!」

絹糸みたいに揺れる銀の長い髪と、服では隠しきれない非の打ちどころのない立ち姿を、見まちがうはずがない。超絶テライケメンな顔は前髪で隠れて、わずかに覗く大きな傷跡には、引いちゃうケド。正直なところ。その上、黒いだぼっとした服は……神父服って言うをだっけ。人間が通う教会に、こんな格好した男がいたわネ、確か。

「ヒッヒ、よく小生だってわかったねぇえ」

生きながら伝説を作った凄腕の死神が、こんな片田舎で、奇妙なコスプレして、アタシに話しかけてきているなんて……現実味がない。夢だとしても、受け止めきれない。

「小生は、きみの技が気に入ったよ。今日からきみの指導者になって、次のグランプリで優勝させるよぉお」

ニヤリと口角を上げる笑みに、背筋に何かが走る。お花畑までもが恥じらうようにざわめいた。

アタシは、言葉を知らない赤ん坊みたいに、目を見張るしかなかった。

「さぁあ、早速きみの技を見せておくれぇ〜」
「ままま、待ってください……ッ、この格好では……」

デスサイズはスポーツじゃなくて正式な死神の任務だから、本来の自分を封じ込めるのは当たり前。だからアタシは、人間風に言うところの変身もしくは擬態として、黒髪姿になる必要がある。

こんな高官の前で素のままでいるほど常識を知らないワケじゃない。いくつなのか聞いたコトないケド、伝説を作るくらいには年とってるんだろうし。頭も固いんだろうし。見た目が超絶テライケメンだからって、年は年なんだろうし。

「いいよぉ〜〜ありのままの、きみ本来の魅力を見せてくれれば」

「はわっ?!」

こここ、このヒト、やたら近寄って来るんだけどッ?!

近くで見ると、ますますイケてる……いいえッ! 伝説さまなんだから、気軽に「カッコいい、抱いてー」なんてモーションかけてイイはずないワ。

「人の命を狩り取る大事な局面で、こちらも全身全霊でベストを尽くすのは当たり前だろぉお。小生に、きみの美しい全部を、見せてくれないかぁい」

美しいのはアナタの方です。

そんな心の叫びも、言葉にならず。アタシは言われるままにデスサイズを構える。

「……はッ!」

ダメね。腰を落としきれなかった。髪の先が目の前に流れてきちゃったのは、吹きさらしのだだっ広い場所のせい。セバスちゃんとは、よく屋外プレイで盛り上がったケド(注:出会い頭に戦いをふっかけては、叩きのめされていた)。

「ふぅむ……」

あれこれダメ出しやらイチャモンやら、されるかと思っていたら。

「髪の裾が元気いっぱいに跳ねて、仔犬みたいだね〜え。生命力にあふれて、目が離せなくなるよ」

「……は?」

よくわからないコトを言われた。

「もっと、きみ自身の魅力と向き合って、生かして武器にするように……小生と訓練しようね〜〜」

「きゃあああッ!」

頭を引き寄せられて撫でられたものだから、つい力いっぱい引き剥がしちゃった。レディーにいきなりこんなスキンシップ、いくらテライケメンでもダメよ!

「失礼いたします」

言葉より早く、見覚えのある刃先が顔から数センチのところを正確に横切る。

「おや、ウィルくん」

「お迎えに参りました。突然お姿が見えなくなったと思えば、このような場所で、クズ死神など相手になさって……まったく、困った御方ですね。ご一緒に王都に帰還いたしましょう」「報告したはずだろぉ。しばらく休みたいって。聞き入れられないなら、ひと思いに引退するまでだよぉ」

「そうまでして、このクズを」

「小生の仔犬ちゃんだよぉ。クズ呼ばわりは可哀想だ。王都で規定通りの任務にあたるには、きみみたいな死神が適している。王都の未来は任せたよ〜」

表面上はものすごく信頼されてるっぽいケド、伝説さまの抑揚のウネリ具合とかヒラヒラ振る手のひらとかは、それとはかけ離れた感じになってる。

あ……ウィルのむき出しのオデコが、ヒクヒクしてるワ……

とっさにアタシはウィルの手を取る。

「ウィルぅッ! アタシと勝負して! アタシが勝ったら、アタシの指導者になってヨ!」

伝説さまと2人きりで特訓だなんて、周りから何て言われるか、わかったモンじゃない。それに、いくらテライケメンでも、息がつまっちゃう。ウィルくらいなら、若さとルックスと実力と地位が、まあ何とかなるレベルなのヨ(もちろんオフレコよ)。お願い! アタシを助けて! ……と思ってたら。

「はぁ……?」

眉間のシワをMAXに深くして、冷たい瞳がアタシを突き刺して。

「御免こうむります!」

ついでにデスサイズをひと振り。さすがに見切れるようになったワ。

「さぁあ仔犬ちゃあん、小生がビシビシ鍛えてあげるからねぇ〜え」

結局アタシは、むやみにゴキゲンな伝説さまと2人、お花畑にたたずむことになった。


(続く)




〈予告〉

「エロスは生命の根源さぁ〜」

「そういうの、大っ好きDEATH!」



「アタシの指導者でいることは、死神としてのアナタを殺すことになるから……終わりにしまショ……やだ、泣かないでヨ!」

「小生はねぇ〜怒ってるんだよぉおお……」




〈あとがき〉

諏○部氏が人気のリビング・レジェンド役で出演しているアニメのパロディでした。

タイトルの「×××」は、強いて言うなら、お花畑? メルヘンです!
ウィルが帰りがけにセバスと遭遇したら、楽しいかもしれない。
本題が進まなくなるので、追及しないでおきます。

続きは、できれば速やかに……(汗)


20210109
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