Rot U

□Offen〜開く(前)
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こめかみから下ろした唇が、耳元から首筋を通って鎖骨に至るなめらかな曲線は、見るのも触れるのも極上だ。葬儀屋にそれを辿られている間じゅう、グレルはひっきりなしに喘ぎまくる。

それくらいグレルは、そうされるのが大好きだ。

その流れで、腕の内側の贅肉のない、光や風にさらされることもない柔肌だとか、胸の先端だとか……数え上げればきりがない。どこに触れられても、いつも感極まった反応を示す。

とにかく、上半身をイジられるのが大好きなのだ。

この日は、既に何度も唇を深くも浅くも重ね合わせていたし、首筋やら耳たぶやら初めから見えている部分はたっぷり味わった。

次に、胸元のリボンをほどいて浮き出た鎖骨のラインに沿って舌を這わせたり、胸の先端を爪の先でふわふわイジって期待感を高めておいてから、指の先で摘まんできゅうっと引っ張り上げて尖らせて、そのあと指の腹を押し付けて丹念にこねこねするワクワクなプロセスを経て、2人ともにがぜん盛り上がって来る。

いよいよ、本格的に、肝心かなめの下半身へと下りてゆく段階だ。

「さぁあ、もっと……こっちも、よぉ〜〜く見せておくれぇ」

「ヤ、ヤだ……ッ」

こういう時の「いや」は文字どおりの意味など持たないものだ。世間の常識からしても、葬儀屋の観察による判断からしても。

衣服をすっかり剥ぎ取られた、雪さえ恥じる純白の肌が、白いシーツの上で眩しく艶めく。

「可愛くて綺麗な体中に、くまなくキスさせておくれよぉ」

代謝が良くて汗かきのグレルの体の、ひときわ湿ったソコの周りは、葬儀屋の指にしっとりと馴染んで気持ちがいい。いっそ、両足の付け根の間にずーっと顔を埋めていてもよいと思うほどだ。

生きのいい魚を自分の腕の中でとことん跳ね回らせて、それから深海の底に閉じ込めて眠らせる。そんなイメージが、とりとめなく頭に浮かんで楽しくなる。

ところが。

「ソコ……いや……」

両足をぴっちり閉じて、そのうえ両手で覆ってしまう。舞台での見せ方にこだわるグレルに似合わず、少しばかりセクシーさを犠牲にしたビジュアルだ。

理想を言えば、グレルの両手は葬儀屋の首や肩に回して抱き締めてほしいし、あちこちくすぐってくれたりしても、大いにソソられる。その指が、葬儀屋が与える刺激のために期せずしてピクッと跳ねたりするのを、葬儀屋自身の敏感な部分で受け止めることができたら、極上の気分だろう。 

葬儀屋の手管にかかれば、グレルの若い肉体など、ひとたまりもなく快楽の深淵に陥ってしまうのは間違いない。まるっきり手つかずだったその肢体は、素直で貪欲だ。陥落させることなど、わけはない。はずなのに。

それなのに、とことんかたくなだ。

下半身は、特にその中心は、忘我の境地に達するまで抵抗心があるようだ。

グレルにとって「男」の持ち物であるソレは、見られたくないし触れられたくない。出来ることならブッた切ってしまいたい、せめて存在を忘れてしまいたいモノであるようで、ソレを恋人の手で膨張させられるのが恥ずかしくてたまらないようなのだ。

『ココをこんなにしちゃうなんて、まるで男みたいじゃないのッ!』

そう叫んだ時には、さすがの葬儀屋も微苦笑したものだが。

グレルにとっては深刻な問題だ。男という性は、他者として感じるべきもので、自分のものとしてはいまだ納得できずにいる。生きづらく厄介なものとも言える性質が、グレルの性質だった。


というわけで、今夜も筋力と理性とこだわりとを総動員して足をぴっちり閉じ、手のひらで覆っている。

わかりやすく感じられるトコロだから、可愛がってやりたいのに。

葬儀屋など、グレルの歯でソコをなぶられると、全身で悶えて震えるというのに。ただし、悶えや震えと達するまでの時間とは別だ。葬儀屋は、いつも所要時間が果てしなく長い。葬儀屋が達するまでの間に、グレルは4回5回とほとばしらせるのが、いつものことだ。その頃には、なかば意識が「飛んで」いるので、持ち前の貪欲さだけで快楽を追い求めるのだが。

グレルは、葬儀屋とこういうコトをするようになるまで誰とも何の経験もなかった。初めて肌に触れた頃(これは、文字通り「触れた」だけである)は、与えられる刺激すべてに過剰なほど反応しまくって、イキまくっていた。

そんなグレルを怖がらせないように、葬儀屋は気が遠くなるほど念入りに手順を踏んできた。その甲斐あって、今はむしろ我慢もコントロールも利くようになったのだ。

長い長いプロセスを経て、ようやく体をつなげるにいたった時の感慨は、葬儀屋の長い生の中でもひときわ印象深いものとして、シネマティック・レコードに刻み込まれている。

初めての時のグレルは初々しくて、愛らしくて、男なら誰しも感無量になるような痴態を見せてくれた。葬儀屋の一挙手一投足に怯えて期待して縮こまっていた。されるがままに流されるしかなかったのだ。

だから、万事を葬儀屋のペースで進めることが出来た。とりたてて処女信仰を持たない葬儀屋にとっても、快いことだった。


それからというもの、グレルは新雪に鮮血を滴らせるようにアレもコレもどんどん学習していった。行為がすっかり気に入ったのだろう。

数回目になると、積極的に動くべきところと、マグロのごとく受け止めるべきところとの使い分けのさじ加減のようなものを会得した。葬儀屋の体に慣れてきたゆえの変化だから、葬儀屋にとっても嬉しくて好ましくて誇らしいことだった。

気に入った前人未到の体と魂とを手中におさめ、自分だけを受け入れるために作り変えて、自分好みに染め上げてゆけるのだから。

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