Rot U

□Liebes licht(1)
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〈まえがき〉

タイトルの固定和訳もナシのままで、見切り発車です。今後、オリキャラが出てきてわちゃわちゃする話に発展させます(希望的観測)。とりあえずバカップルのイチャラヴ場面を書きました。

ラストでねっちょり致す予定ですが、今回のR度数は15程度です。読み進める前にご了解ください。



「せっかく山奥のリゾート地に派遣されたんですものッ。山小屋デート、したいじゃなぁい?」

任務で遠出するのに恋人を伴って、帰りがけに2人でヴァカンスを楽しむ。何というゴキゲンなプランだろうか。グレルは、浮かれに浮かれまくっていた。持ち前のぴょんぴょん跳ねるイントネーションや澄んだ母音の響きは3割増しだ。

もちろん、そんな融通が利いたのは葬儀屋が持つ「伝説」という称号あってのことだ。

山小屋の中は、天井の隙間から星灯りが見えるほど暗いが、死神独特の視力があるので、2人は互いの顔をはっきり認識できる。ペリドット色の瞳に、どんなに物欲しそうな情念を浮かべているのかさえも。

どちらからともなく擦り寄って指を絡め、唇を合わせる。理由も理屈もなく、くっついていたい。ペタペタとテレテレと触っていたい。どれだけ月日と肌とを重ねても、2人はめいっぱい蜜月まっさいちゅうだった。

今夜の宿は、ある著名な作家が何十年か前にやって来たという山小屋、つまり簡易宿泊施設。シャワーがあり、鍵のかかる寝室もある。ベッドは個人用のものではなく、いわゆる雑魚寝状態で使う仕様になっていたが、季節外れのこの夜、利用者は他にいなかった。

朝市で仕入れてきたライ麦パンにチーズにヴルスト、それにローカル・ワイン。ほうぼうに輸出するだけの生産量がないので、現地でしか味わえないものだ。手軽で、それでいて満ち足りた夕食は、山の夜気まで暖めてくれる。

そして。夜のとばりが下りた後にすることと言えば、古今東西、大同小異だ。

「魂が水に溶けて、流れて、また戻って来る……っていう詩があったねぇ。昔ここに泊まった文豪が作ったやつが」

「あー、人間だから知らないのネ。魂は溶けて流れたりしないものなのに」

文学談義とも、睦言ともつかぬ言葉を連ねる一方で、グレルの衣服はするすると取り払われてゆく。負けじと葬儀屋の神父服に付いているボタンを外すべく指をこねるが、小さいのでなかなかうまくいかない。数も33個あるので、外しても外してもキリがない。

「ヒヒヒ……人間界で行動するには、聖職者のふりをしておけば、便宜を図ってもらえる場合があるからねぇ……」

麓に着いた時だって、人間のまねごとをして馬車で移動してみようとしたら、順番待ちの行列で先を譲ってもらえた。

そういうこともあるから、文句は言えない。

グレルの方は、リボンをほどき、シャツのボタンをゆるゆると外されてゆくにつれて、たやすく胸元が顕わになってゆく。夜目にも白い肌が、葬儀屋の征服欲に火を点ける。それでも、獣のように性急にかじりついたりはしない。あくまでゆるやかに、黒く伸ばした爪の先で外郭をなぞる程度だ。

「……っ、それだけじゃないわヨ」

肌の上をかすめる葬儀屋の指に酔いつつあるのだろう、詰めたような息を吐いてから。

「オイシイものの包み紙は、丁寧にゆっくりじっくり剥いた方がテンション上がるじゃない?」

山奥で2人っきり。どんなに喘ごうが叫ぼうが、邪魔される心配もない閉鎖空間を独占しているみたいな今の状況。数人が横になって寝られるスペース全部を使えるのだから、ゴロゴロ転がったってかまやしない。

アゲアゲモードがスパークするのは、止められない。

「今夜は、まだ魂が溶けないかい?」

「まだ平気ヨ。ずいぶん慣れたのヨ、これでも」

「早くトロかせたいんだけどねぇ」

「アナタの方は、せっかちになっちゃったの?」

思わせぶりにセリフを作るのは、グレルの虚栄心と女優魂、それを働かせるだけの余裕が残っているゆえだ。いくらも経たないうちになくなるのは目に見えている。だから、せめて今だけ。

「伝説の死神様がそんなんじゃ、ファンが泣くわヨ……あら、雨?」

山の変わりやすい天候が、通り雨をもたらした。サァァと静かな音を立てるだけの雨は、人間を脅かすほどにはなり得ない。高山植物の根が一時的に潤うくらいのものだ。

「人間界の水は、循環しているんだよ」

「そういうものなの?」

「そう。だから、魂だって水に流れると謳ったんだ。つまりは、人間の意識がそういうものだってことさ。そんなイメージを言葉にして示したら、大衆受けしたんだもの、それでいいのさ」

「受ければいいって計算しはじめたら終わりヨ。大衆に迎合するだけじゃなくて、大衆を引っ張って行くくらいの攻め気でないと、舞台はつとまらないワ」

「さすが女優さんだねぇ。それじゃあ、小生を引っ張って行ってくれるかぁい?」

ニヤリと笑ったかと思うと、グレルの上に伸しかかっていた上体をスッと起こして、ベッドの上に座り直す。

「きみがリードしておくれぇ。得意だろう?」

無防備に体をさらすような所作は、グレルの狩人の本能を呼びさます。

葬儀屋の嫣然とした笑みは、暗い部屋の中だろうと、前髪で瞳が隠れていようと、グレルの腰を直撃する。

「…………が、がんばる。任せてちょうだいッ」

今度はグレルが葬儀屋の上に伸しかかって、押し倒す。

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