Silber
□BRILLE〜メガネ〜
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「いやン、もぅっっ♪」
照れたグレルは、赤くなった顔を小生の懐に埋めて隠そうとして。
ゴンッ!!
胸元に頭突きを食らった形で、小生の頭は背後の壁に激突さ。
うん…幸せな痛みだね。
「死神寮にいるのと違って、キッチンが自由に使えるからいいわネ。メンザ(※死神派遣協会の食堂)はガサツな男どものためにボリューム重視だから、カロリー超過になりやすくって困ってたのヨ」
本当に寮生活にうんざりしていたんだねぇ。気軽にここで暮らすようになったことの一因だと思うよ。小生にとっても、渡りに船のタイミングだったわけさ。
「それにしても。執事をやっていた時に、いろいろ失敗続きだったって話してくれたのを思い出すと別人のようだね」
執事時代のすべてを話す気はないみたいだから小生も聞かない。
断片的なことは面白そうに話してくれるから、そこは大いに楽しませてもらっているよ。
「あぁ…最近、身をやつして魂を刈りに行く業務が増えたからネ」
鮮やかな切り口でスパッと切られているトマト。真っ赤に熟して柔らかくなった断片は、それとよく似た印象のグレルの唇に吸い込まれていく。
この食べ方や、唇の微妙な動きはいくら見ても見飽きないものだ。
だけど。じっと見入ってしまいそうなところに続けられた言葉に。
「万が一にも、こちらの正体が死神だってバレないように、開発課が独自に作り出したメガネのせいヨ」
――小生としたことが、暫し絶句してしまったよ。
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