Kurz

□着陸は死神だのみ?
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「……今の、何だったんだ……?」

しばらく経って、ようやくユーリが口を開く。

悔しいが、ヴィクトルは大人だ。こんな出来事に遭遇しても、いつも通りレジェンドな言動ができるなんて。

「なぁ、ヴィクト……!」

覗き込んだヴィクトルの顔は、レジェンド・スマイルどころか完全に表情を失っていた。

「あんた……ガチに命がけだったんだな……」

「使えるものは何でも使って、身を守らないと、ね……」

見たことのない挙動は、キャッスルのトップに固定された魚(シャチホコ)のオブジェを思わせた。

「あんた、ホントにオレの身代わりになるとか、考えたのかよ?」

「あのレディを言いくるめる勝算は、あったよ。申し訳ないけど、さすがに命は惜しいからね」

ヴィクトルにかばってもらった気になっていたのも忘れて、ユーリは広いシートに体を投げ出す。試合後よりも、体に嫌な疲労物質がたまっている感じだ。

いつの間にか揺れが収まった機内では、何事もなかったかのように乗客や乗務員がうごめいている。


「……世界には、いろんな文字があるんだな」

違う。今は、そこに食い付く時じゃない。
「そうだね。キリル文字は、あんまりポピュラーじゃないからね」

「……とりあえず、サンクトペテルブルクに戻ったら、学校の課題やらなきゃ」

「そうだね、世界で活躍する選手になるためには、教養も必要だ」

「うん」


『死神は、恋した娘の身代わりとなって、自らの魂を……』

頭によみがえってきた物語のワンシーンを振り払う。

教科書に載る名作は、作曲家のイマジネーションも刺激するようで、数々の曲が作られている。定番の題材としてプログラムに使うことになるかも、と思っていたが。

(あの話、しばらく読みたくねーな)



ロシア二強美形を乗せたアエロフロート機は何事もなかったかのように飛び続け、遅延記録を更新したが、わりとよくあることなので誰も驚かなかった。




その頃。

「グレル・サトクリフ! あなたは、また魂の台帳を読み間違えましたね!」

死神派遣協会で、グレルがどやされていたのは、また別の話。



Ende.



〈あとがき〉

名作小説『死神ウィルの物語』(OVA)は、歴史に名を残しているようです(捏造)。

ロシアの翼アエロフロート機内では、着陸時に乗客が神に無事を祈る習慣らしいです。
再び飛行機で遠出できる世界になるのを夢見て、細部を考えないご都合主義、好きなキャラを出会わせたいためだけの話でした。

ファーストクラスは未知の世界すぎて、ビジネスにしました。庶民感覚からすれば、充分に充分。

どこからどこに向かっているのかも未定、アエロフロートのスケジュールも未確認、ロシアの学校制度も(略)

ニシゴーリくん(cv.じゅん○ゅん氏)は、とても男前っぽいキャラクターだと思いますが、表現できませんでした。
飛行機に何度も乗って世界中に遠征するユーリは、家族の間ではとっくに英雄扱い。後に、勝つためには魂さえ差し出すと言ってのける素地は、着々とはぐくまれています。



20200801
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