幸せ家族計画
「悪いんだが、イフィリア。ちょっと出てってくれないか?」
休日の朝。平日とは違い少し遅めになって起床しリビングへと向かえば、廊下の途中で、ロックオンにそう告げられた。
「え?どうしたの?」
「良いから。夕方位までどっかで時間潰しててくれないか?悪いが今すぐ」
部屋戻って着替えればすぐに出ていけるだろ?と淡々と告げるロックオンの言葉に、何故出ていかなければ理由がわからず、とりあえず財布がリビングに…とだけ言ってみれば、ロックオンは無言のままリビングへと入り、そして直ぐ様出てくると、
「ほら、財布。金の方は大丈夫か?何なら少し渡しておくが」
「あ、ありがとう。いや、それは大丈夫なんだけど……。えと、エル達は?」
「いるぞ、リビングに。エルー、エミリー」
「「はーいっ!パパー、いってらっしゃいー」」
「い、行ってきます…」
最早有無を言わさず出ていけと言われているのと同じで。イフィリアは寝起きのぼさぼさ髪のまま、財布を握り締めて引きつった笑みを溢した。
「イフィリア!早ク行ケ!早ク行ケ!」
「だっ…!?体当たりすんなクソオレンジ!」
現在午前10時。普段ならロックオンや子供達と一緒になって朝の団らんを楽しんでいるところだが、何故か今日は一人淋しく公園でポツン。犬の散歩をする人達を、噴水の周りにあるベンチに座ってぼんやりと眺める休日。寂しい、寂しすぎる…!
「一体なんだってんだ…?」
何故朝早くから家を追い出されなければいけないのか。何故リビングに入れて貰えなかったのか。何故子供達が顔を出してくれなかったのか。
普段とは違うことがありすぎて、頭の柔らかいイフィリアでもこれという答えは得られなかった。今日は何かの日だったか?そんなことを考えて、うーんと首を傾げた瞬間、
「っ!?」
突然、ガシッと背後から腕を掴まれ、あっと思った時にはもう、腕を引かれ近場の木にドンッと背中から叩きつけ付けられていた。
大した衝撃ではなかったが、地味に痛む背中に耐えながら目を開いてみると、予想外の人物にため息が零れる。
「……お前、久しぶりの再会の挨拶がこれとは、あんまりじゃねぇかグラハム」
「いや、正直軽く振り払ってくれると思ってはいたんだがな。やはり身体が鈍っているな、イフィリア」
元軍人とは思えないなと、皮肉たっぷりに口元を吊り上げて笑う元同僚に、悪かったなと告げて腕を掴んでいた手を払う。正直、身体が鈍っているのは否めなかった。……つーか現役軍人が普通、今やサラリーマンである男に掴みかかるか。
「てか何の用だよ、俺今超絶ブルーなんだけど」
「少し位再会を喜んでくれても構わないだろう。まぁ、何。たまにはと君の家を訪ねようとしたら、予想外なところで君を発見したからな」
だから声を掛けた、基挨拶をしたまでだよと、顔を近付け女性なら即ノックアウトされそうな紳士スマイルで笑うグラハムに、昔より多少態度が改まったイフィリアでも思い切り嫌悪感丸出しで舌打ちした。
しかし、グラハムは気にした素振りを見せず、
「ところでイフィリア、何か外で用事があるのか?」
「は?あー、いや、用事っつうか、ちょっと事情があって外で時間潰さなきゃいけねぇんだけど…」
「ならば丁度良い、少し私と出掛けないか?私も今日は久しぶりの休暇なのだ」
「お前と?でも出掛けるたって何処に……」
「何処でも構わんさ。買い物でも何でも、色々あるだろう?」
「いや、それ普通カップルとかが行くだろう」
男2人で買い物って……。何を想像したのか、ぞぞっと寒気が背筋に走るが、不意にぐいっと手首を掴まれ、
「とにかく行くぞイフィリア!」
「んな!?ちょっ、待てっておいっ!」
了承を得ずにずんずんと先を歩くグラハムに連れられ、イフィリアは公園を後にした。
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