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□サヨナラをしよう
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明日。全てが終わる。
少なくとも、ボクにとってはすごくすごく特別な日。


お風呂から上がり、髪を乾かしながら何気なくカレンダーに目をやると。
ある一点に赤のペンで大きく丸された箇所が目に止まる。

そこには“卒業式”の文字。

勿論書いたのはボク。
今更確認するまでもないけど、やっぱり少しだけ実感が沸かない。
明日で最後。
もう、みんなと毎日会うこともない。
制服に袖を通すこともない。


……先生と、会うことも出来なくなる。


そこまで考えて、ズキンと胸が軋んだ。
聖帝に入ってから色んなことがあった。
だけど目を閉じて思い出すのは、いつだって先生のこと。



怒った顔。
困った顔。
呆れた顔。
照れた顔。

―――笑った顔。



どの顔も好きだけど、やっぱり笑った顔が一番好きだった。

明日の支度を終え、タンスを探る。
なかなか目当てのものが見つからず、もしかして捨ててしまったのだろうかと一抹の不安が過ぎった時。
ようやくそれを見つけ、胸を撫で下ろしながら手に取る。


真新しい男子制服。



当たり前か、三年間一度も着なかったもんな。
いや、ちょっと違うか。
明日で、最初で最後。
三年前の自分はまさか卒業式にコレを着るなんて思ってもいないだろう。
それだけじゃない。女装を止めようなんて思ってるなんて、考えもつかなかったハズだ。
一年前のボクなら。


弱かった自分。
逃げていた自分。


それを真正面から気付かせてくれたのは、先生だった。

優しくてお人好しで分かりやすくて―――暖かくて。
いつから先生を“先生”として見られなくなったのかな?
もう思い出せないや。

先生に会えなかったきっと、一生弱いままの『ゴロちゃん』だった気がする。
気付かないままなら多分楽しくて、ラクだったんだろうな。
だけどそんなの所詮作り物だから。いつかは壊れてしまっていたよね。

いつでもボクと真っ直ぐ向き合ってくれたこと。
弱い自分を教えてくれたこと。
ボクと出会ってくれたこと。
全部に感謝したいんだ。


だから、先生にはいっぱい伝えたい。



心からの『ありがとう』
ありったけの『大好き』



先生と一緒にいたい。
“生徒”としてじゃなく“男”として。


それを伝えよう。
男のボクの姿で。



明日は卒業式。
全てが終わる日。

そして、始まりと終わりの日。



だからサヨナラしよう。


弱かった自分とも。
先生と生徒という関係からも。
新しい自分。新しい道。

それを進むとき、出来るなら君が。



どうか悠里が、隣にいますように。





end.
 

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