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□絡まった糸の先
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甘い香りがする。甘い甘い香りが。
この匂いに引き寄せられて、何人の男がこの人を求めているのだろうか。



「あ、あの…翼、君?」



腕の中でわずかに担任が身動いた。
逃がさないように抱き締める力を強める。
きっと顔を真っ赤にして、困った顔をしているだろう。
容易に浮かんだ想像に笑みが洩れた。


想像していた以上に担任の身体は細くて、小さくて、華奢で。
一歩間違えれば壊してしまいそうだ。

髪から香る仄かなシャンプーの匂いも、すっぽりと腕の中に収まってしまう小さな身体も、女性特有の柔らかさも。
俺の胸を締め付けるには充分過ぎて。
“欲しい”と渇望する心が暴れ出す。


この人に惹かれているのは俺だけじゃないと知っている。




「………俺を選べよ、先生」

「え?」




「俺を選べ。―――――悠里」




一瞬震えたのは、先生の身体か。
それとも俺の声だったのか。


分からなくて、答えも知りたくなくて。


ただ抱き締める腕に力を込めた。





end.

 

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