vitamin-log

□手を伸ばして
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「持ってくれてありがとう、一君」

「いいって、先生じゃ重いだろ」



最近、朝は職員室に日誌を取りに行くことから始まる。
そんな理由はもちろん一つ、先生に会いたいただの口実。
だけど先生は全然それに気付かない。
いつも色々妄想してる割に、全くもってこの人は鈍感だ。

そんなところも可愛いと思ってしまう俺の頭は既に相当やられてるかもしれない。



今日も例の如く足を向ければ、配布物のプリントの束を持とうと苦戦する先生の姿があって。
手伝いに名乗りを挙げようとしてた真田先生よりも先にプリントを抱えた。
……悪いけど先生を他の男と二人っきりに出来るほど心は広くない。



「日誌、また他の子がサボったのね」

「まあ……」



曖昧な笑みで適当にごまかす。
先生は全くもう、みんな一君に頼りっぱなしなんだから、なんて言ってて。
ほんの少しだけ良心が痛む。
先生が思うほど俺はイイ奴ではない。


現に今だって先生との距離を測りかねている。
近付きたいけど近付けなくて、触りたいけど触れられない。
ジレンマの嵐だ。



(……意識してないころは簡単に触れたのになあ)



今、不用意に触れたら我慢出来なくなりそうだ。




「あら、一君」

「え? …………!」




不意に、先生の手が伸びてきて、俺の前髪の一部に触れた。
それはすぐに離れてしまったけれど。




「寝癖。珍しいわね、一君が」




ふふ、と笑って先生は視線を前に戻した。
何か先生が話しているようだけど、心臓の音がうるさ過ぎて。適当に相槌を打つしか出来ない。
顔が、熱い。多分真っ赤になってしまっているだろう。
先生がこっちを見ていなくて良かったと、切実に思う。

気付かれないようにそっと溜息をつく。



あまり無邪気に触れないでほしい。





(次はきっと、抱き締めてしまうから)






end.
 

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