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□恋文
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清春君の机の中から。
ヒラリ、と風に乗って何かが床に落ちる。
それに気付いた私は身を屈めてそれに手を伸ばした。



「あれ清春君、何か落ちたわよ」

「あァ?」



拾い上げてみるとそれは淡いピンク色の封筒で。
表には女の子らしい筆跡で“仙道清春様”と綴られている。
多分、ラブレターなんだろう。



「はい」

「別にイラネー」



清春君はチラリと一瞥しただけで、すぐに興味が失せたように視線を外した。
確かに清春君やB6は手紙なんて貰い慣れてるだろうと思う。
特に清春君には性格がああなだけに、正面切って告白出来ない子だって多いはず。
だからこういう形で想いを託すのだ。
彼にとっては沢山のうちの一つでも、受け取るくらいはしてもいいと思う。



「そんなこと言わないの!この子が可哀想でしょ」

「別にィ〜?俺様が頼んだワケじゃないしィ〜」

「もう、好きな人に手紙を書くってすごく勇気のいることなのよ?」

「何だよ、もしかしてェ〜?ブチャも書いたことあンのか?」



うっ、と一瞬詰まったのが悪かった。
それを見た清春君が新しい悪戯を見つけた子供みたいな顔でニヤリと口元を上げる。



「……学生時代、一度だけね」



大人しく白状する。
清春君には下手な誤魔化しは通用しないと短いながらも付き合って行くうちに、身を以て学習した。
下手すれば自分の身が危ういことも。



学生時代。クラスに女の子から騒がれる王子様みたいな男の子がいて。
私もひそかに憧れていた。
一度だけ思い切って手紙を書こうと思い、学校帰りに文房具店で2時間迷って便箋を買った。
沢山悩んで、何度も何度も書き直して。
気付けばもう朝になっていた。
そっと鞄の中に忍ばせて学校に持って行ったけど。


けれど結局、渡せなかった。




「……手紙を書くこともだけど、渡すことも勇気がいることなの」




直接でも間接でも。
私にはその勇気がなかった。
でもこの子はこうして頑張っている。
だから私は出来る限り、その背を押してあげたい。

清春君を見据えると、少し不機嫌そうな顔をしていた。




「…今回ダケだかンな」




そう言って、清春君は渋々ながら手紙を受け取った。
……やっぱり根は(多分)いい子なのよね。
かなり歪んではいるけど………。



「清春君は手紙とか嬉しくないの?」

「全ッ然。つーか、手紙なンて今時古くせーってェの」

「う、そうなのかしら…」



やっぱり時代が違うのかもしれない。
もう古くさいのかな、手紙なんて。

でも、そうだな。もし今、私が学生なら。
きっとみんなと同じようにB6に憧れて、この手紙の子みたいにひっそり手紙を忍ばせているかもしれない。
もしかしたらやっぱり勇気が出なくて渡せないかもしれないけど。



「……やっぱり古い人間なのかもね」



そう言って笑ったら。




「お前からなら、特別ちゃんと受け取ってやるヨ」




清春君は意地悪い顔でそう笑ったけど、声は意外なほど優しくて。



何故だか、胸がいっぱいになった。






end.
 

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