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□愛しい体温
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ふと目が覚めてみると、教室は既に一面オレンジ色に染まっていた。
軽く開いた窓から、少し肌寒い風が流れ込む。

ある意味いつも通りだけど、その日は一つだけ違っていた。


目が覚めて一番最初に目に飛び込んで来たものは。
目の前で、机に突っ伏して眠っている先生の姿だった。
腕の下にある補習プリントを見たところによると、僕が起きるのを待っているうちに眠ってしまったんだろう。
起こせばいいのに。
それとも起こしたのに僕が起きなかったのかな。


ゆらゆらと、風に揺れる先生の髪の毛。
何もかもがオレンジ色に染まっている。
頬にかかった髪の毛を後ろに梳くと、先生が僅かに身動いだ。
咄嗟に手を引いたけど、幸いにも起きる様子はなくて。
またすやすやと小さな寝息を立て始めた。



(………何だか子供みたいだ)



自然と笑みがもれて。
とても暖かい気持ちが胸に広がる。


さっき引っ込めてしまった手をもう一度伸ばして。
柔らかで指通りのいい、ミルクティブラウンの髪をゆっくりと撫でた。
たまに先生が、眠っている僕にこうしてくれるように。

いつもとは逆の立場。
先生は、いつも何を思って僕を撫でてくれていたんだろう。
僕みたいに、今にも溢れてしまいそうな気持ちになってくれていたのかな?
……それは、高望みし過ぎか。


誰にでも、同じくらいの暖かさを与えてくれる人だから。



手を取って、甲に軽く口付ける。
僕よりも一回りも小さくて、僕よりもずっと暖かい手のひら。



この手が、僕の狭い世界を変えてくれた。
愛しい、という気持ちを教えてくれた。


こんなにも人を好きになるなんて。
――なれるなんて、夢にも思わなかった。



太陽が沈みかけている。
もうすぐ、見回りの先生が来る時間だ。



だけどもう少し。

もう少しだけ、貴女の体温を感じさせて。




せめてその瞳が僕を映すまで。






end.
 

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