vitamin-log

□まだ、知らない
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カベからもらった新しい水鉄砲の中身をセットして。
明日用の悪戯を頭の中で組み立てる。
さあ、明日はどんな悪戯を仕掛けてやろうか?
アイツが怒りながら追いかけてくる姿を思い浮かべて笑いが洩れる。

なーんて、意気揚々と家を出たのに。



「休みィ?」

「ああ、何でも風邪引いたらしいぜ」

「センセ大丈夫かなあ〜…ゴロちゃんポペラ心配〜」

「ふん、庶民はヒワイだな!」

「それを言うならひ弱だろう…」

「………昨日、少し具合悪そうだった…」

「クケー…」



みんな口々に何か言っていたが結局は心配そうで。
何だか分からないイライラが胸を襲う。

HRはあのツルピカハゲが来やがった。


何でだかその日は一日中イライラが収まんなくて。
いつも以上に悪戯して回ってやったのに。
気分はスッキリするどころか、さらに悪化した。


マジわけわかんネェ。
初めてだ、悪戯が楽しくないなんて。


そんな気持ちを抱えたまま、異様に長く感じた一日が終わって。
さっさとストリートにでも行こうと廊下を歩いていたら。
オバケが昇降口に待ち構えていた。
いつもみたいにウッサンクセェ顔をして。



「駄目ですよ、清春君。悠里先生に今日の補習を頼まれてしまいまして」

「チッ、ブチャのくせに変なトコ気を回しやがって…」



大体俺様に補習してもらいたいんなら、休むなッつーの。



「おやおや、悠里先生が風邪を引いたのは清春君のせいなんですよ?」

「ハァ!?」



勝手に人の心読みやがって。
マジ、コイツオバケだ。



「昨日元々体調を崩していたのに、誰かさんが水なんかかけましたからねぇ」

「………」

「ふふ、分かってもらえたところで補習始めましょうか」

「……ックソ」



今日は何もかも面白くない。
このワケ分かんねェ胸のモヤモヤもイライラもムカムカも。
全部アイツのせいだ。


*****


翌日、何でか少し早く目が覚めた。
眠ろうにも目がイヤに冴えてしまって。
仕方なしにベッドから起き上がった。

学校に着いて、バカサイユに向かうんでも教室に向かうんでもなく。
一番に職員室へと向かった。
変にざわめく胸を抑えながら。

職員室の前に立つ。
扉に手を掛けて一つ深呼吸。
一気に開け放つ。




「あら?清春君?」



………居た、ちゃんと。
いつもみたいに笑って。



「ウリャ!喰らえブチャ!!」

「きゃあっっ!!」



オモチャのヘビを大量に投げつけてやる。
ブチャは顔を真っ青にして慌てたが、すぐにオモチャと気付いて。



「もうっ、清春君!!」



―――――ああ、コレだ。

俺の心を満たすもの。
コイツが居るから、俺は満たされる。



「キシシッ、風邪なんか引いてンじゃねーヨ、ブチャ!」




その奥に潜むものには、まだ気付かないまま。






end.
 

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