vitamin-log

□ほんの少しの勇気と
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プレゼントとか、お祝いの言葉とかは望みません。
だからどうか神様。


ほんの少しだけでいいから、俺に勇気を与えて下さい。



「っみ、南先生!!」

「は、はい、何でしょうか?」



放課後。斑目の補習の準備をしていた南先生を呼び止める。
理由は勿論、今度こそデートに誘うため。
いつもいつも斑目に邪魔されて上手くいった試しがないけど。
今日こそ、今日ぐらいは……!



「えっ、と……その!」

「…?」

「あ〜〜…み、なみ先生」

「はい」



首を傾げる彼女が可愛すぎて益々言葉が詰まっていく。
顔真っ赤にしてどもる俺を不思議に思ってるんだろうな…
あああ、何て情けない俺……っ
最初の一言、それさえ出れば後は勢いで言える気がするのに。
それが中々出てこない。


そうしているうちに無情にも時は過ぎていき。
南先生は腕時計を一瞥し、申し訳なさそうに顔を上げた。



「あの、すいません真田先生……そろそろ補習が」

「あ、ああ、そっか!ごめんね、引き留めちゃって!!」



謝罪と一緒にペコリと頭を下げて、歩き出した南先生の後ろ姿にガックリと肩を落とす。
結局いつもと同じ。
何も言えない、出来ないまま誤魔化すように笑って諦める。
それでいいのか?
だって今日は――――………


意を決して拳を握り、距離を詰めて扉を開けようとしていた南先生の腕を掴む。
その腕の細さに驚きつつも、決心が揺るがないうちに勢いに任せて言葉を吐き出す。




「今日補習の後っ、時間空いてますかッッ!?」




言った、とうとう言えた……!
バクバクと早鐘を打つ心臓は今にも壊れそうで、多分顔も真っ赤だろうけど。
ようやく目標達成出来たことが胸いっぱいに満たしていた。

が、それは無惨にも打ち砕かれる。



「……えっと、すいません。今日は補習の後、瑞希君と参考書を見に行く約束がありまして…」



……ま〜だ〜ら〜め〜〜!!
どこまで俺の邪魔をすれば気が済むんだ、己はあああぁあ!!

神様、ひどいよ。
そりゃあいつも運がない俺だけど、せめて今日ぐらいラッキーなことがあったって罰は当たらない筈だ。
やっと絞り出せた勇気だったのに。


そうは言っても先約があるなら仕方ない。
ましてや生徒に関する事なら尚更だ。
本気で泣きそうになりながら(かなり情けない顔の自覚はある)無理やり笑顔を作って先生から手を離した。



「そっ…か、なら仕方ないよなあ」

「あの、真田先生…」

「ごめん、いいんだ!ほら、急がないと補習遅れるよ」



くるりと南先生に背を向けて自分のデスクへと歩き出す。
そうでもしないと、もっと彼女に情けないところを見せてしまいそうだった。


7月25日、俺の誕生日。
勇気は出せたけど、結局欲しいものは手に入らなかった。
世の中上手くいかないことばっかだもんな……神様。


その時、後ろで声がした。
決して大きくはない。けれどしっかりとした声が。



「明日なら、空いてますよ」



思わず振り向いた先には、少し照れたような南先生の笑顔。


ほんの少し勇気を出して踏み出したその先に待っていたのは。



大きな大きな幸せだった。






end.
真田先生誕生日おめでとうございます!
 

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