vitamin-log
□奥底に潜む
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苛々した。
ただ、無性に。意味もなく。
どんなに努力しても届くことのなかったアイツとの差にも。
面白いほどに計画通りに進み、アイツを窮地に追い込んだあの時も。
荒れていたアイツを優越感を滲ませた眼差しで見据えても。
それでも一向に、苛立ちは治まる処を見せなかった。
それどころかある時期からその感情は悪化の経路を辿った。
classXの新しい担任、南悠里が現れてからは。
最初は馬鹿馬鹿しい、どうせまたすぐに辞めるだろうと高を括っていた。
しかしその予想は大幅に外れて――――気が付けば。
昔そのままのアイツが、笑っているようになった。
苛立ちは日に日に増して。
それと比例するようにアイツは昔に戻っていく。
憎くて憎くて仕方なかった、親友と呼んでいた頃の草薙一に。
そしてその隣にはいつだって、南悠里が居た。
クラスXを馬鹿にすれば眉を吊り上げて怒り、アイツのことを口にすれば真っ直ぐな視線で私は彼を信じてるとのたまった。
……苛々した。腹の底から。
アイツの笑みも、アイツの担任の真っ直ぐな視線も、全て。
奪ってやった、アイツから。サッカーも、人望も、信頼も、一つ残らず何もかも。
それなのにどうしてアイツはまた新しいモノを手に入れる?
俺には到底得ることが出来ないモノを、どうしてそんないとも簡単に。
一体、どうして。
(――――羨ましかったよ、一)
俺の持ち得ない全てを手にしてしまうお前が。
事件のことを何も知らないくせに、信じると言い切った教師に出会えたお前が。
……………俺も、この暗闇から掬い上げてくれる教師に出会いたかった。
俺の全てを認めて信じてくれる人に出会いたかった。
俺も、
どうしようもないほど堕ちてしまう前に、お前を裏切ってしまう前に、
彼女に会いたかった。
――――俺を救ってほしかった。
ずっと胸の奥底で燻っていたこの感情が何なのか気付けずに。
気付いたときには全てが終わったときだったけれど。
それでも。
貴女に出会えたこと。
本当に、本当にほんの少しだけ感謝しています。
南先生。
end.