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□星が見えない(sideH)
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いつかのあの日みたいに先生を壁際に追い込んで。
先生を覆うようにして壁に手をつき、逃げ道を塞ぐ。
どこか怯えた色を滲ませる瞳が俺を映している。

どうしてこんな事になってしまったのかを頭の片隅で考えた。
けれど、よく思い出せない。
ただ補習の最中に清春の話になって、あんまりにも楽しそうに先生が清春のことを話すから。
気付いたときにはこうなって――――こうしていた。
今ハッキリしていることと言えば、


頭が、割れそうに痛いことだけ。




「一君、どうしたの…?どこか痛いの?」




俺の様子を不安に思ったのか、先生の手が髪に触れた。
その温もりは泣いてしまいそうになるぐらい、優しすぎた。

馬鹿だな、先生。今の状況分かってんの?
何処までお人好しなんだよ、アンタは。

何故だか本当に目の前が霞み始めたとき。
顔を見られたくなくてその手を引っ張り、腕の中へと閉じ込めた。
胸が、心臓が、悲鳴を上げている。




「先生、苦しいんだ」

「はじ、めく……」



声を遮るように力を少し強めると、苦しそうな声が聞こえた。
だけど聞こえないふりをして、その細い身体を力一杯抱きしめた。




「苦しくて苦しくて、仕方ないんだ」




アンタと清春が一緒に居ると。一緒に笑ってると。
どこにいても何をしてても、その事で頭いっぱいになって、何も考えられなくなる。


重症だろ?なあ、先生。

俺を救ってくれよ。




「俺の、……傍に居てくれ」




先生、と耳元で囁くと、彼女の身体は一瞬ピクリと強張った。
そしてゆっくりと背中に回された温もりと一緒に、俺は恋い焦がれ続けたこの人を。




―――最も卑怯な方法で手に入れた。







end.
 

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