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□蜂蜜グラッセ
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どんな極上のお菓子でも。
きっと貴方と過ごす甘い一時には敵わない。



「あ、あの……翼君?」

「どうした?気にせず仕事を続ければいい」



先程から髪の毛やうなじに落とされるキスの雨。
まるで感触を楽しむみたいに、飽きることなく何度も何度も。
腰に回された腕は身動きを取ることさえ許してくれない。
怒ることも制止することも出来ずに、ただただされるがまま。


遡ること約30分前。
書類の整理をしていたら明日使う補習プリントの解答を作っていないことに気付いて。
慌ててノートパソコンを開いたとほぼ同時にインターホンが鳴った。
事情を話して15分だけ待ってほしいと頼んだときの翼君の顔はそりゃもう不機嫌だったけど。
渋々ながら納得してくれたんだと思っていた。
だけどそれから5分も経たないうちに翼君の手が伸びてきて。
そして冒頭に至る。

確かに、確かに翼君と数週間ぶりに丸一日過ごせるその日に仕事を持ち出した私が悪い。悪かったけど!
こんな意地が悪い仕返ししなくたっていいじゃない……!!


次第にキスは首筋をゆっくりと滑り始めて。
驚いて身を引こうとしたら、腰に回された腕に一層力が込められ、逆に引き寄せられる。
後ろからしっかりと抱き抱えられる形になり、心臓が大きく跳ねた。
艶を含んだキスが肌に触れる度に身体が震える。
頭の片隅ではとっくに警告音が鳴り続けているのに。
溶かされた思考にはそれから逃れる術が浮かばないのだ。
僅かな理性を掻き集め、耐えるようにギュッと目を瞑った。

すると、丁度左耳の裏辺りにチクリとした痛みが走った。
思わず目を開いて振り返る。



「つ、翼君ッッ!!」

「何だ、先程から手が止まっているな?悠里」

「〜〜〜〜!」



きっと真っ赤に染まっているだろう顔で精一杯睨み付けてみたけれど。
さっぱり効果はないらしく。
見惚れるような綺麗な笑みを浮かべて軽く額に口付けられた。



「悠里」



………もう、この人は本当に卑怯だ。
こんなに甘い声で名前を呼ばれて、逆らえるはすがないのに。
観念して電源を落とし、ノートパソコンを閉じた。
身体を反転させて正面から翼君と視線を合わせると。
彼は満足そうに笑っていた。
何だか負けた気がして(実際負けたのだけど)悔しくなる。



「………意地悪なんだから」

「俺をほったらかして仕事しようとする悠里が悪い」

「……反省してます」

「分かればいい」



そう言って今度は瞼の上に口付けられる。
さっきので十分、代償は支払ったような気がするのだけど。
翼君はまだまだ終わらせる気はないらしく。
遠慮なく顔中に降ってくるキスは何よりも甘い。
そして思考も理性も何もかもが溶かされてしまう。
まるで蜂蜜みたいたキス。
キスがこんなにも甘いものだとは今まで知らなかった。



「……虫歯になりそう」

「Sweetsでも食べたのか?」

「それ以上に甘いわ」

「? 何だそれは」




何よりも甘い貴方との一時。
それはいつだって極上の幸せと一緒に。






end.
 

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