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□召しませ、愛を。
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食卓に所狭しと並べられた、見事に黒一色の料理の数々。
そしてニコニコと可愛らしく笑っている俺の恋人。
一気に血が引いていくのを、どこか遠くで感じた。



「おはよう、一君。よく眠れた?」

「あ、ああ、おはよ…つっても、もう11時か」

「ねね、一君お腹空いてるでしょ?」



ギクリ、と無意識に身体と顔が強張る。
昨日は試合があったため、帰って来ると飯もろくに取らずに寝てしまった。
だから腹が減ってると言えば減ってるいるが………
この黒オンリーの食卓にさすがの俺も食欲大幅ダウン。
寧ろこれを見て食欲旺盛な奴を見てみたい。

しかし悠里の気持ちを踏みにじることなんか俺には出来ない。
半ば観念しつつ食卓につく。



「な、んか…やけに豪勢……だな」

「えへへ、これ何だと思う?」



何って。謎の黒い物体にしか見えないのですが。

いや!諦めるな、俺!!!よく見ればもしかしたらもっとこう……何か特徴があるかもしれない!!
悠里の期待に輝かせた瞳を一身に受けながら必死にその物体を凝視する。
が、一面余すとこなく真っ黒なそれの正体なんて正直24時間掛けたって分からないんじゃないかと思う。
何も答えられずにいる俺に、悠里は得意気に言った。



「正解は一君の大好きな唐揚げでした!」

「……へ、へぇ〜」



いやいやいや、ちょっと悠里さん。
これじゃただの黒い塊だから!!!!ていうか火山岩にしか見えないから!!!!

数々のツッコミを必死に喉の奥へと引っ込め、代わりにゴクリと唾を呑み込む。
まるで戦場に向かう兵士の気分だった。
………いや、ある意味では非常に的確に的を得ている。
そんな俺の心を知ってか知らずか(多分、いや間違いなく後半だ)悠里は先程からニコニコとしている。
“早く食べて”オーラがそこら中に迸って俺を責め立てていく。
少しでも心の準備をしようと無駄な時間稼ぎにそれとなく悠里に話し掛ける。



「そ、それにしても朝…じゃなくて昼?からなんでこんなに沢山?」

「その……昨日の試合、一君すっごく活躍してて、終わった後疲れてたみたいだったから」

「?それと何か関係あんのか?」


「だから……一君のために何かしてあげたいなって、思って」



愛しい彼女に頬を微かに染められ、俯き加減でそう言われた言葉を嬉しく思わない男なんてこの世に存在しない。
いたとしたら、そいつはきっと男じゃないか頭のどっかがやられてる。
悠里が手間暇かけて作ってくれた手料理。
その結果が例え見目恐ろしい黒の集団だったとしても、俺は喜んで喰ってやろう。

本当は今にも目の前のご馳走(決して料理のことをいってるんじゃなく)を頂きたい気持ちでいっぱいだったが何とか理性で押さえ込み、箸を握った。
見た目が黒いだけ見た目が黒いだけ、味は至って普通のハズだと念じながら。

これを愛の試験と呼ぶのなら、腹を壊そうとも下そうとも受けないわけにはいかない。



君が嬉しそうに隣で笑っていてくれるこの時間の全てが、俺の何よりのご馳走なんだから。





end.
 

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