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□星を求めて(sideH)
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「ナギ」
HRが終わって一限目の準備をしていると、不意に声を掛けられた。
誰かなんて顔を上げなくたって分かる。こんな風に俺の名前を呼ぶヤツは一人しかいないし、それに。
朝からあれだけ殺気立った視線をぶつけられていて、あれで分からない方が変だ。
バスケしている時以外は滅多に見せない、驚くほど真剣な目が。
端的に用件を訴えかける。
さっきのたった一言に込められた意味に気付かないほど、生憎俺は鈍くない。
ああ、分かってるよ。
先生のことだろ?
黙ったまま出しかけていた教科書を机に戻し、席を立つ。
どちらともなく教室を出ると、後ろで悟郎の慌てたような声が聞こえた。
平気だ、という意味を込めて笑って片手を軽く上げる。
悟郎はそれ以上何も言って来なかったが、何となく複雑そうな顔をしていた。
……もしかしたら悟郎は気付いているのかもしれない。
俺と清春と、先生の変化に。
悪い、と心の中でそっと謝り、不機嫌なのを隠しもせずに歩を進める清春の背中を追う。
頭の中でこれから起こるであろうことを考えながら。
妙な気分だった。
最近まであんなにも罪悪感が頭のほとんどを占めていたというのに。
今は驚くほど冷静な自分がそこにいて。
思わず苦笑が洩れる。
何でか?そんなのひどく簡単。
だって俺はもう、
あの人を手放せないから。
(手放す気なんてないから)
end.