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□私のご主人様
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ああ何故。一体何がどうあってこんなことになってしまっているのか。
出来ることなら誰かに一から教えてほしい。

しかし生憎、此処にはさも楽しそうに携帯をこちらに向けてシャッターを切りまくっている清春君と。
何でか文化祭で翼君と攻防を繰り広げたメイド服に着替えさせられた私しかいないのだ。


遡ること30分前。発端は先日引き出しの整理中に見つけた少し古びたトランプ。
つい懐かしくなってしまった私は、清春君にほんの遊び心でゲームを持ち掛けた。



「ねね、清春君!トランプしない?」

「トランプだァ〜?」

「そう!昨日偶然引き出しの奥で見つけてね。懐かしくなっちゃって」

「いいけどォ、悠里弱そうだシ多分相手になんないゼェ?」

「むっ。これでも高校の頃は強かったんだから!」

「ンじゃあ、何か賭けようゼ」

「賭け?」

「フツーにやんのは面白くねーシ。負けた方は勝った方の云うコト何でも聞くってルール」

「……何か企んでない?」

「負けンのが怖いならべっつにヤんなくてもいいんだぜェ?」

「〜〜やるわよ!!勝って二度と悪戯なんて出来ないようにしてやるんだから!!!!」

「キシシシッ、そうこなくっちゃ」

「一つ言っておくけど、反則無しだからね!」

「分かってルって。さすがに勝負事にズルはしネーヨ」



そして選ばれたゲームはオーソドックスな神経衰弱。
………思えばこの時点で気付くべきだったのだ。


清春君のいざというときに発揮される抜群の記憶力の良さに。


……結果は私の惨敗。

大体いちいち清春君が『おぉ〜っと、ホントにそこだったかァ?』などと心理戦に持ち込んでくるのだ。
おかげで集中出来ないったらありゃしない。
反則ではないから咎めることも出来ず、結果は清春君の圧勝。


そして持ち出されたのがこれ、というわけである。


どうして清春君がこんなものを持っているのか、とか。
そもそも何で都合良くここにあるの、とか突っ込みたいことは山ほどあったけど今はそんなことよりも。
この歳になって、このフリフリのメイド服を着なければならないという最悪の罰ゲームに愕然としていた。

一応抵抗はしてみたものの…



『いいいい、嫌よ!!こんなの着れないわ!!』

『キシシッ、サイズはお前ピッタリだゼェ?』

『そういうことじゃなくて!何なのコレ!?こんなもの着れるわけないでしょう!!』

『ンじゃあ、別のにするかァ?』

『…べ、別のって……?』

『これから朝までオレとベッドでノーミツなァ、』

『着ます』



………とまあ、こんな経緯でメイド服に着替える羽目になったわけだけど………。



「ね、清春君…もういいでしょう?」

「キシシッ、ダメに決まってんダロ!」

「う〜…」



高級な素材なんだろうこのメイド服の着心地はとてもいい。
が、居心地は最悪だ。
こんな、普通の人なら一生着ずに終えるような服をこの歳になって着るのはなんとも恥ずかしいやらなんやらで居たたまれない。
似合ってないのなんて、自分でも分かりきっている。
どうしてこうも清春君は嬉しそうなのだろう。



「…清春君、楽しい?」

「あったりまえだろォ!」

「……そう」



そうよね、清春君に聞くなんて愚問に他ならないわ……。
私の嫌がる様子が彼にとっては愉しくて仕方ないのだろう。
それでも清春君が嬉しそうならたまにはいいかなあ…なんて思ってしまうのは、結局は惚れた弱味なのかしら。

なんてぼんやり考えいるうちにようやく清春君は写真撮影に満足したらしく、携帯をポケットにしまった。
ようやく肩の力が抜ける。



「もう気は済んだのよね?じゃあ着替えてくるから!」

「待てッてェーの」



返事を待たずに部屋へ戻ろうとすると、ガシリと清春君に肩を掴まれた。

なに?まだ何かあるの!?
内心ビクビクしつつもおそるおそる振り返る。






「な、なに…?」

「お前は今、オレ様のメイドだろォ?」

「な…っ、違!」

「違わねェ」






キシシッ、という独特の笑い。
そこにふざけた色以外のものを見つけて、ジッと清春君の目を見つめる。
それに気付いたのか、清春君は少し目線を逸らして「こんなときだけナ…」と呟いた。
そして真っ直ぐに見つめ返して私の名前を呼ぶ。





「悠里」

「…なぁに?」

「お前は今、オレ様のメイドだヨな」

「そう…かもね」





そう答えた私に満足げな、けれど物足りないというように。
肩に置かれた手の力が、微かに強まった。



「メイドはご主人様には絶対だよなァ?」

「……清春君?」

「だから、」



「一生オレの傍にいろ」



驚くほど真剣な瞳に射ぬかれ。
瞬きも出来ない。


普段あれだけ自分勝手に私の意見なんか聞かないで物事を進めちゃうくせに。
周りなんか気にも留めないで駆けて行っちゃうくせに。

たまにこんな風に、


不安そうな顔をする。


反則よ、本当にもう。
これが全部計算づくの演技だったらすごく恐ろしいけど(…あながち否定出来ない)
もう私もとっくに手遅れ。
きっと清春君からは一生離れられない。


肩に置かれた手をソッと両手で包み込んで微笑む。




「ご主人様の、望むままに」




一生私は、アナタの虜。






end.
 

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