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□秋桜の花言葉
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校庭の片隅に植えた花に朝の職員会議前と放課後、水をやる。
それが聖帝に就いてからの俺の日課。
静かで心落ち着くこの一時を俺は気に入っていた。
そして最近は、密かな楽しみでもある。



「おはようございます、九影先生」

「おう、早いな南」



ニコニコと笑う彼女のミルクブラウンの髪が揺れる。
―――これが、最近の楽しみ。


以前偶然このことを知られてから彼女はちょくちょく此処に顔を出すようになった。
ライバルの多い南と自然に二人きりになれる唯一の場所。
たった数分でも俺にとっちゃあかけがえのない時間だった。
こいつが笑って俺の隣に居る。今はそれだけで十分。



「コスモスですか?」

「おぉ、昨日から咲き始めたんだ」

「確か秋に桜、って書くんですよね」

「そうだ」

「何だかピッタリですよね、この花に。すごく綺麗…」

「……ああ、そうだな」



そう笑うお前の方が綺麗だ、なんて。とてもじゃないが言えやしねぇ。
柄じゃねえしな。……キヌさん辺りならサラッと言っちまいそうだが。
何てぼんやり考えていると、花壇を見つめていた南がこちらに振り返って笑った。
読んで字の如く、花が咲き誇るようにふんわりと。



「きっと、九影先生が毎日手を加えて育てて来たからこんなに綺麗なんですね」



………あぁ、もう。
勘弁してくれよ全く。どこまで骨抜きにすれば気が済むんだ。
お陰で意識してないと口元が緩んできちまうだろうが。

コスモスを5、6本引き抜き、根に付いた泥をホースで洗う。
そして簡単に水を拭い、突然の俺の行動を怪訝そうに見ていた南に花を差し出した。



「やるよ」

「え、え?えと…宜しいんですか…?」

「ああ。気に入ったなら教室にでも飾ってやってくれ」

「わあ、ありがとうございます九影先生!早速教室に飾らせていただきますね!」



こいつは知らないが、実は今日は俺は誕生日だったりする。
そんな日に逆に誰かに花をやるなんて、よく考えりゃあおかしな話だ。
だけどこれでいい。
育てた花を綺麗だと言ってくれたこいつの笑顔を見れただけで。それだけで俺は。



「なあ、南」

「はい?」

「秋桜の花言葉知ってるか?」

「花言葉、ですか。うーん…秋桜はちょっと分からないです」

「秋桜の花言葉はな、」





『乙女の真心』っていうんだ。



(お前にピッタリだよ、南)






後日誰かから俺の誕生日を聞いたらしい南がプレゼントを持って此処にやって来るのは、また別の話。







end.
誕生日おめでとうございます九影先生!
 

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