SRX-log

□守りたいもの
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今でもたまに夢を見る。
仲間を、お前を失った日の悪夢を。


蔓延する血の匂い。
破壊し尽くされ、瓦礫と化した建物。
一人ずつ地に伏していく仲間たち。

そして――――……




『逃げてヒジリ!』




最期の、お前の声。





「――――ッッ!」




ガバッと起き上がり。
咄嗟にここが何処なのか分からず、辺りを見回すと。

真新しい白いカーテン。
スタンドライトしか置いてない机。

そしてようやく思い出す。

ここは、俺の部屋だ。
戻ってきた琉球LAGから、新たに与えられた部屋。

ホッと胸を撫で下ろし、詰まっていた息を吐き出す。
鼓動は未だに早鐘を打つ。
酷く汗を掻いていて、肌に纏わりつく服が気持ち悪い。
大袈裟な溜め息を一つ零し、ベッドから立ち上がる。
Tシャツを脱ぎ捨てて、汗を軽く拭ってから制服に腕を通した。


海でも見に行こう。
まだ明け方前だけど、誰も居ないだろうから逆にちょうどいいや。

どうせもう眠れない。
あの夢を見た後に眠れたことなど、ない。


部屋を出て、薄暗い廊下をなるべく足音を立てないように歩く。
すると建物の入口付近に人影を見つけ、不審者かと一瞬身構えるが。
すぐにその正体に気付き、肩の力を抜く。

悪戯心をくすぐられ、忍び足でソイツに気付かれないように近付くと。
後ろからポン、と肩に手を置いた。



「こーんな時間にこんなとこで、何やってんの?」

「きゃっ!?」



アキラは飛び上がって驚いた後、恐る恐るといった様子で振り返り。
俺を見咎め、ホッとしたような表情を見せた。



「もう!驚かせないでよヒジリくん!」

「わーるい悪い、そんな驚くとは思わなかったんよ」



これはちょっと嘘。
アキラならいい反応してくれるだろうと思ってた。
予想通りのリアクションについつい笑みが洩れる。


しかし。

ホントにこんな時間・こんな場所で何やってたんだ?
いくらLAG内とは言え、時間も時間だ。
女の一人歩きは危ない。



「で?お前はこんなとこで何してんの?」

「……ヒジリくんは?」

「俺?こんな時間に男がやることっていったら決まってるっしょ」

「?」

「お前んとこに夜・這・い」

「ま、またふざけて!」



わざと顔を近付けて囁いてやれば、アキラは顔を真っ赤にして眉を吊り上げた。
可愛いなぁ、おい。そういう顔するからまたからかいたくなっちまうってこと、コイツは知らないんだろうな。

ま、ふざけるのはこの辺にしておくか。



「なに、寝付けなかったとか?」

「えっと、その……」

「それとも怖い夢でも見た?」



う、とアキラは言葉を詰まらせた。
どうやら図星だったらしい。
相変わらず顔に出やすいな、ホント。



「なになに、それで怖くて眠れなくなっちゃった?かーわいいねぇ」

「そ、そんなんじゃないもの!ただちょっと、風に当たってこようかなって……」

「ふーん?じゃあ行こうぜ」

「え、あ……」



アキラの手を取り、反抗される前にさっさと歩き出す。
抵抗するタイミングを逃したらしい彼女は俺に手を引かれたまま、大人しく後ろを付いてきた。


俺よりも小さくて、細い手。

守りたかった手。
守れなかった手。

四年前、同じようにこの手を握ったことがある。


だんだん冷たくなっていく手を必死に握り締めて、名前を呼んだ。
泣きながら、馬鹿みたいに何度も何度も。

喋る力さえ残っていなかったアキラは、俺を見つめて静かに笑った。
無事で良かった、とそう言いたげに。

弱々しい力で握り返された手から伝わってきたのは、



『生きて』



そのメッセージだけ。



「ぃ、た…っ」

「あ、悪い」



知らず知らずのうちに力が入りすぎていたらしい。
慌てて緩めると、アキラはじっと俺の顔を見上げた。



「……どうしたの?」

「何が?」



「だって、ヒジリくん何だか泣きそうな顔してる」




なに言ってんだか。
マジ意味分かんねぇし。
俺が泣くわけねーじゃん。

そう言って笑い飛ばしてやりたいのに、何故だか上手く声が出せない。


そんな俺を見てどう思ったのか。
アキラは手を強く握り返し、笑った。




「大丈夫、わたしはここにいるよ」



何が、大丈夫なんだよ。
分かってないくせに。
俺のこと忘れてるくせに。

俺を独り、置いてったくせに。


そんな風に同じ笑顔を見せないでくれよ。
俺を救おうとしないでくれよ。

また失うのが、怖くて仕方ないんだ。


胸を巣喰う恐怖に耐え切れなくなって。
アキラを引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
心臓の音が聞こえる。確かに存在しているんだと、生きている、音がする。




「ヒジリ、くん……?」




戸惑うような声に、ごめんと呟く。
離してやることが出来ない俺に、アキラは黙って身を委ねてくれる。

変わらないのな、お前は。
求められれば無条件で手を伸ばすんだ。


暖かい体温。
俺を呼ぶ声。

一度は放してしまった、俺の大切なもの。



だからもう、絶対に離さない。
今度こそ守ってやる。
全てを懸けて守り通してやる。


お前だけは、
――――アキラだけは。








(どんなことがあったって、

今度こそ俺が守り抜いてみせるから)






 

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