SRX-log

□孕む激情
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何がどうしてこうなってしまったのか、サッパリ分からない。
どうしてわたしはLAG内の廊下で、


ヨウスケくんに壁際に追い込まれているんだろう。


しかも、彼の両腕がわたしの顔の横に置かれてしまっているこの状況。
まるで逃がさないと言わんばかりに。
事実、わたしはその場から一歩も逃げられない。
それどころか僅かな身動きすら取れず、縮こまっているしか出来ない。だって。



(どうしてそんなに近いの……!)



だって、ヨウスケくんの顔も身体も吐息すら髪にかかるほど近くて。
少しでも動いたら身体同士が触れてしまいそうなのだ。
更に厄介なことにヨウスケくんはずっと、わたしから目線を逸らしてくれない。
こうして俯いてる今も、痛いほどの視線を感じてる。



「あ、あの、ヨウスケくん?一体どうし……」

「何故オマエは下を向いてるんだ?」



本当にすぐ傍で、彼の声が鼓膜を震わせたから、思わず小さく肩が跳ねてしまった。
何故って、そんなのヨウスケくんがすごく近いからに決まってるのに!
それに顔も熱い。多分真っ赤になっちゃってるだろうことは簡単に予想できるから。
だから余計、顔なんて上げられない。



「じゃあそこをどいてよ、ヨウスケくん」

「嫌だ」

「嫌だって……」



ヨウスケくんの考えてることが全然分からない。
そもそもこんな状態になったのも、本当に突然だった。
廊下を歩いていたら偶然ヨウスケくんと会って、声を掛けようとしたところで腕を掴まれ。
気付いたらこうなっていた。
どうしたのと尋ねても答えてくれないし、どいてと言っても
聞いてくれない。
ホントにどうしちゃったんだろう。

このままじゃ埒が開かないと覚悟を決め、ヨウスケくんを見上げれば。
とても整った顔がすぐ間近にあって。
その近さに若干怯みそうになりつつも、目線を逸らすまいと自分に活を入れた。



「ヨウスケくん、何か怒ってるの?わたし何かした?」

「………」

「ならどうして怒ってるのか教えて。もし何かしちゃったなら、ちゃんと謝るから」



ヨウスケくんはわたしを見つめたまま、口を開こうとはしてくれない。
やっぱり何かしちゃったのかもしれない、優しいヨウスケくんが理由もなくこんなことする筈ないもの。
でもその理由が分からない。分からなきゃ謝ることも出来ない。
 
困り果てていたその時、彼がボソリと呟いた。



「……さっき、」

「え?」

「さっき、ヒジリとなに話してた」

「ヒジリ、くん?えぇと……あぁ!」



そういえばさっきヨウスケくんと会う前に少し立ち話をしてたっけ。
て言っても、ほんの5分くらいだけど。



「ヨウスケくん見てたの?」

「偶然、見えたんだ」

「特に大した話はしてないよ。ちょっと世間話したくらいで、」

「笑ってただろ」

「え…?」



ぐ、と腕を掴まれ、さらに顔の距離が近付く。
さすがに動揺して後退ろうとしたら後ろの壁に阻まれてしまった。
逃げ道は、何処にもない。



「ヨ、ヨウスケくん近いよ…!」

「笑ってただろ、ヒジリと話してたとき」

「そう、だったかな」

「ああ、オマエは楽しそうに笑ってた」



分からない、ヨウスケくんは何が言いたいの?
笑っていたことが気に障ったのだろうか。



「ヨウスケくん、あの……」

「――――嫌なんだ」

「…え?」

「アキラが他の男と話してるのが嫌だ。他の男に笑いかけてるのが嫌だ。どうしてそう思うのかは分からない。だけど、」



嫌なんだ、と吐き出したヨウスケくんの顔はとても苦しそうで。
でもそれ以上に言われた内容に頭が真っ白になって。
彼の言葉が脳に届いたのと同時に、じわじわと顔に熱が集まっていく。

だって、だって今の。
今のって……



「何だかヨウスケくん、ヒジリくんに妬いてるみたい、だよ?」

「妬く?……オレが、か?」

「そ、そう!なんかそんな風に聞こえたから、その、えっと……」



それからどう続けていいのか分からず、俯いたわたしの耳に飛び込んできたのは。



「ああ、そうかもしれない」



そんなヨウスケくんの声に、目を見開く。
そして気付いた時には、彼の腕の中に閉じ込められていた。




「オマエをヒジリにも、誰にも渡したくない。………オレだけを見てほしいと思うのは、おかしいか?」




直接耳に吹き込まれた言葉にゾクリと背中が震える。
どう答えればいいのか、どう反応すればいいのか分からなくて。


だけどヨウスケくんと触れている身体が、熱くて仕方なかった。







(熱に、溺れてしまいそう)





 

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