09/04の日記

01:14
↓続き
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「ぐっ、!」

鉄同士がぶつかる度鋭い高いが響く。
力の面では己が圧倒的に不利である。
ぶつかる度に後退を余儀なくさせられる。

敵は二人。
しかもプロ忍だ。
なんとかなるかと思ったがやはり厳しい。
どうするか、と辺りを少しみやったその時だった。

「隙あり」
「あぐッ!」

しまった、と思った時にはもう遅く。
腹部にきた重い衝撃に受身も取れず自身が地に叩きつけられる。

すぐに体勢を直すが鈍痛に顔をしかめた。

「餓鬼の癖粘るな」

感心したように言う相手を睨む。
うっすら汗が見える。彼方も体力は削られているようだ。
紫宛は滑り落ちそうになる桜花を握りしめた。

大丈夫。
まだ動ける。

自己暗示をかけゆっくり呼吸をする。

きっと、先輩が助けてくれる


――――本当に?



「考え事とは随分余裕だな!」
「!」

いつの間にか懐に入り込んできた男の苦難を咄嗟に弾く。
すると腹部に強烈な痛みがはしり息がつまる。
それを見逃さなかった相手が桜花を紫苑の手から弾いた。

「しまっ」
「もう終わりだよ」

桜花の方へ伸ばした手が後ろに周りこんだらしいもう一人の敵に掴まれ地面へと叩きつけられ身動きできないように極められてしまった。

「ぐっ…」
「あーひやひやした」
「観念しやがれこの糞餓鬼」

顔だけ持ち上げて睨む。
上に乗っている男は愉悦そうに顔を歪め、もう一人は生意気な面、と眉を寄せた。

だが眉を寄せた後、へえ、と呟き紫苑の顎を掬った。

「さっきまでそんな余裕なかったがよく見りゃ綺麗な顔してるな」
「貴様の面はへどが出そうだ」
「口の減らねぇ餓鬼だな」

さっきから脱出を試みてるが上にいる男がさせない。
殺気は惜しみなく送り続ける。
すると上で喉の奥から笑う声が聞こえた。

「殺すにはやはり惜しい。飼うのはありかもしれないな」

慰みものにしてやろう、なぁ?と下非た笑みで見下ろしてくる男に血の気がざぁ、と引いた。

不味い。
助けて、誰か。
だれ、か。


――――誰が?
――――俺を助けてくれる人なんて、どこにいる?

――――厄介者な俺を助けてくれる人なんて、いないだろう

――――昔からそうだった。味方なんて兄さんだけだったじゃないか


その兄も、今はいない。

「さっきの餓鬼共が援護を呼んでくると厄介です。早いとこずらかりましょう」
「…ぃ」

男がそう言ったのに小さく返す。
男は聞き取れなかったらしくあ?と聞き返した。

「来ないさ、援軍など」
「は?」
「俺は厄介者でな。助けなんて出さないだろうさ」

紫苑は自分を嘲笑いながらそう吐き捨てる。

兄さんがいなければ、俺は一人、独りだ。
誰か、誰か。誰もいない。

もう、いい。

「…ふーん。じゃあ味見しちゃおうかな」
「先輩!?」
「溜まってるんだよ」

男の言葉に紫苑へ思い切り顔をしかめた。
だがそれすら相手は愉快そうだ。

「悪趣味」
「なんとでも」

クスクス笑いながら紫苑の腕を手際よく縛りあげる。
そんな紐どこから、と思ったら紫苑の帯だった。
頭に血が上る。
暴れてはいるがものともしてない。

(唱術使うか…だがこうも近くては気付かれかねない…)

一人で切り抜けるにはどうするかと頭を回転させる。
だがどれも良い案ではない。

面倒だと、上の装束が破り捨てられる。
不味い。

「っ離せ!気色悪い!」
「いいね、そういう反抗的な態度。屈服させたくなる」
「くたばれ」
「とんだじゃじゃ馬だな…こんなんどこが良いんすか」

そう言いつつも戦闘で高ぶったらしい気分を抑えないらしい。
舌舐めずりする様に嫌悪を抱いた。

胸に手を添えた、その時。
二人は急に紫苑から離れた。
と、同時に紫苑の上を通過する戦輪。
その戦輪の行き先には―――

「紫苑!無事か!?この実技も教科もナンバー1の平滝夜叉丸がきたからには安心するがいい!」

紫と松葉色の装束を身に纏った先輩の姿。
自信に満ちた顔の滝夜叉丸と――――いつもはいけいけどんどん!と陽気なはずの無言、無表情の小平太。

「せ、んぱい…?」

嘘だ。こんなの。
だって、こんな。

無言で小平太に寄られ、呆然としていると小平太は自らの装束を脱ぎ紫苑に掛けた。
それは温かく、夢ではないことを覚った。

殺気が駄々漏れな小平太に敵が怯む。
小平太は拳をごきごきと鳴らした。

「私のモノ(後輩)に手を出したこと後悔させてやろう」
「…援軍来ないの嘘か。畜生」
「退くか」

その場から逃走しはじめた敵を小平太は追い始める。
紫苑は未だ呆然としていた。

そんな紫苑に滝夜叉丸に駆け寄り拘束を解こうと帯に手を掛けた。

「おい、紫苑大丈夫か?あちこち傷だらけじゃないか。っと、解けた。ふふん、この滝夜叉丸にかかればこんなものちょろい!」
「…どうして……」
「ん?七松先輩か。あの人自分のものに手を出されるのが一番嫌なのだ。あの曲者死んだな」

遠くでぎゃあ、と言う声が聞こえた気がする。

滝夜叉丸はそんな訳だから安心するといい、と紫苑の頭をぽすぽすと軽く叩いた。

「俺を助ける理由なんて、ないじゃないか」

か細い声でそう言った紫苑の声を滝夜叉丸は聞き取ったらしい。

滝夜叉丸は紫苑の頭をポカリ、と殴った。

「馬鹿か?先輩が後輩守るのに理由なんていらんわ!!」

まあ優秀な私は守られなくとも平気だがな、と笑う。
高らかに笑いながら滝夜叉丸は肩から落ち掛けた小平太の装束を紫苑にかけ直してやる。

その動作に、言葉に、羽織の温かさに鳩尾あたりが重く、胸の奥がきゅうとし、鼻の奥がツン、とする。

だって、まさか。

滝夜叉丸がふと、紫苑を見れば大粒の涙を溢しており、滝夜叉丸はぎょっとした。

「なっ、どどどどうした!?傷が痛むか?怖かったのか?私が殴ったからか?もう大丈夫なんだぞ三之助達も無事だし今頃学園で待ってるぞ!?」

あわあわと検討違いに慰める滝夜叉丸。
そうしてしるとあー!!と言う第三者の声が響いた。
声の主は小平太だった。

「滝夜叉丸が紫苑泣かしてるー!」
「ちっ、違います!なあ紫苑!?」
「じゃあなんだ?怖かったのか?大丈夫だぞお前達は私が守ってやるからな!悪い奴はやっつけたぞ!」

そういって小平太は紫苑の頭を乱暴に撫でた。
少し痛かったがそれ以上に温かかった。

「紫苑、よく頑張ったな。後輩よく守ったな。偉いぞ!ありがとな」

褒められることも礼を言われることも生まれてこのかた縁が少し遠くて。
言葉に出来ない思いが溢れて涙の量が増えた。

それを見た小平太と滝夜叉丸はなんで!?と慌てた。

「ええと、紫苑、背中に乗れ!いさっくんに傷みて貰おう。学園に帰ろう!」
「あいつらも待ってるぞ!」

な?な?と不器用に慰める二人に頷く。

慣れない温かさ。
一人じゃ、ない。

「あり、がとう…っございます」

紫苑の蚊の鳴くような声に笑って頷く二人。




学園に帰ると泣きながら迎えてくれる後輩がいた。

この世界は、案外悪くないのかもしれない。






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―――

長かった…orz

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