02/01の日記

21:23
↓続き
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柳梅あせび13歳でるろ剣世界で頑張ってる話

御庭番強襲辺くらい






ズドォッ

塀を破壊されたであろう大きな音に目を覚ます。
起き上がると同時に自身が今の今まで布団の中にいることを知り、どれだけ寝入っていたのか思い知り、舌打ちする。
幸い装備は構われてないらしく普段とさほど変わらない重さに安堵した。

だが、

「……」

銃創のある左腕。
これは今使い物にならないだろう。
骨に異常はなさそうだが縫合したらしく、下手に動かせない。3日は不自由するだろう。

「まぁ3日も生きてられるかわかりませんけどね」

自嘲気味に笑い、立ち、懐に手を入れ、瞬時に天井へと手を向ける。
ガッ、と棒手裏剣が天井に当たり、空気が重くなるのを感じた。

「御頭でありながらこんな小用に手を出すとは、随分人手不足なんですかね」
「……」

ゆらり、不思議な速さで舞い降りるコートを羽織った長身の男。
御庭番衆が御頭、四乃森蒼紫。
今の自分では到底かなわないだろう。
そんなことは、わかりきっている。

「やれやれ、恵さんもとんだ男に目をつけられたものですね」

懐刀を抜き、構え、口角を上げる。
笑うことだけは、昔から得意だった。

蒼紫は相変わらず、能面のような顔であせびを射抜く。
隠密らしからぬ炎を、その瞳の奥に乗せて、前を見据える姿は、長に相応しい姿だ。

交錯する視線。
時は止まってくれぬ。

「己は戦闘向きではないんです」
「だろうな。般若と似ている」
「密偵のように見えます?そんな大層なものに見られて嬉しいですね。ですが、己の分野は――捨て駒ですよ」

蒼紫が一瞬、息を飲む。
それを逃さず懐へ入りこみ、一閃。
それを難なく受け止める蒼紫の小太刀と、自分の懐刀の間に、麻袋。
刃物によって切り裂かれ、中身の粉が舞う。
細かいそれが互いの気管に入り、少しばかり噎せた。
それは蒼紫も同じ。
だが戦闘に慣れている故か、すぐさまあせびの顔に拳を叩き込んだ。

「これはなんだ」

淡々と粉の正体を尋ねる蒼紫に無様に床に伏したあせびが笑う。

「ただの弛緩薬ですよ。二三日で抜けるんじゃないですか?最も、己には効きませんが」
「……貴様、毒の使い手か」
「なりそこない、ですが」
「……」

本分は毒の暗殺者。
だがそれすらになりそこない、逃げ出し、行き倒れたあせびを己が家訓に準じ、どこの者と知らない子供を高荷恵が拾った。

恵は家訓に沿っただけかもしれない。
けれど懸命にあせびを救い、生きろと説いたあの人を、苦しみの末に死ぬなど、考えたくもなかった。

「……恵さんは、生きるべきなんです。己にしてくれたみたいに、人を救いながら、生きるべきなんです。あんな口でも性根は優しい方ですから」
「……」
「貴方にはどうでもよくても、己にはどうでもよくないんです」

にこり、少しだけ眉根を下げ笑う。
他の御庭番衆から逃れ、逃げおおせれていられればいいが。

「例え逃げても追うぞ」
「させまさん。命を睹して、引き留めます」

毒がまわるまで少し時間がかかる。
動きが鈍る、その時まで時間を稼げれば、なんとかなるだろう。
蒼紫が小太刀を構える。
――来る。

そう思った時には既に、懐に入られた。

「ッ!!」

左に小太刀が入り、懐刀で凌ぐ。
そして直ぐ様右の頬に蒼紫の拳が入る。
唇が切れる感覚を覚えながら後方へ飛ぶ。これ以上攻撃を食らわない為に懐刀を飛ばす。
難なくそれは弾かれ、再び間合いを詰められる。

「ふッ!」

繰り出された蹴りを捌き、右に回り込み、当て身する。
そして、速く間合いを取った。
自身が使っていた寝具に足を取られ、滑稽にも転がった。

「……軽いな。この程度か」
「は、はぁっ、」

蒼紫にダメージはさほどない。当たり前だ。あせび程の軽量の当て身など効く訳がない。
それに対しあせびは左腕が不自由に加え、貰った一発が足にきている。
息一つ乱してない蒼紫と、満身創痍に等しいあせび。
十数秒で、この様だ。

「もう引いたらどうだ」

力のない、膝をついているあせびを哀れに思ったのか、蒼紫が提案する。
あせびは、笑った。

「己は貴方達とは違い、誇りなどありません。見苦しくてもいい。汚くてもいい。ここは、譲りません」
「……」

埃と撒いた毒が部屋に充満している。
これならば、いける。

できるなら、時間を待ちたかったが、致し方ない。

「ここが狭くて良かったです」
「――…?」

手にするは炸裂弾。火種が無くとも使える優れもの。

蒼紫ほどの者なら逃れれるだろう。
だが、それはこの炸裂弾でのみの威力の場合だ。

「御頭さん。粉塵爆発って知ってますか?」
「、まさか」
「はい。また会えるといいですね」

炸裂弾を、思い切り畳に叩きつけ、布団を被る。

轟音と衝撃。

外に身が飛ばされる。

――相討ちに、出来ただろうか。

地獄に堕ちそうだと思いながら、目を閉じる。

恵さん、生きてくれたら、いいなぁ。

上手く逃げてくれていることを願い、意識が途絶えた。


























目を開けると、体のそこかしこ激痛が走った。

「―――あ、れ?」

まだ、己は生きている?
よしんば御頭を倒せていても、御庭番衆に殺されると思ったのに。
まだ、生きている?

「目が覚めたでござるか」
「……剣、客、さん?」

御庭番衆にやられたのではなかったのか。
もしかして、退けたのか。

「童、御主、無茶ばかりするでござるなぁ。部屋一つ吹っ飛ばして、薫殿に叱られるでござるよ」
「めぐ、さ、は、」
「無事でござるよ。御庭番衆も引いたでござる。童が一番重傷だ」

ため息混じりの言葉に、あせびは笑った。
自身は体を強く打ったのと、少しの火傷。これで一番の重傷なら、他は軽いものだ。

「よかった」
「童?」
「恵さん、は、おのれの恩人です。光のあたるとこで、生きるべき、人です。闇は、己が引き受けます」

この剣客が無事ということは、御庭番衆は多少なりともダメージを食ったはず。
ならば、今なら、観柳を叩けるかもしれない。

痛む体を叱咤し、起こす。
大丈夫。まだ動く。

「安静にしてるでござるよ」
「そういう訳にも、いきません」

この剣客は強い。
けれど、自分も引く気はない。

「己のことは、なかったものと考えください。そもそも、表舞台で生きれる者ではありませんし」
「……御主、もしや隠密か?」
「……何にもなれなかった、何処にもいない子供ですよ」

まだ立てる。
まだ戦える。
さあ、今度こそ。

「こらぁーー!!!!怪我人は大人しく寝てなさーい!!!!」
「ぃぎっ!?」

すこーん!
小気味いい音を出したのは、お盆と自身の頭。
聞いたことのない若い女性の怒鳴り声をBGMに意識がまた遠ざかる。
頭がぐらぐらする。

どうして、

「恵さんは、助けて、」

己のことは、捨て置いてくれればいいから。
お願いだ。

必要な命の為に不要の命を、使って。
生きるのは、あの人だ。

「恵殿のことも、御主のことも、守るでござるよ。今は、休むでござる」

その穏やかな笑みに、あせびは恵と出会った当初を思い出す。
阿片を持った女と、死に損ないの餓鬼に、何故こうも親身になれる?

「ほらほら寝なさい!恵さんも貴方も追い出さないわよ。剣心も佐之助もいるから安全よ」
「……お人好しの集まりですか。早死にしそうな面子に頼ってしまったわけだ、恵さんは」
「見る目は有ったんじゃない?」
「どこがですか」

ああ、くそ。
動けない。

「大丈夫。なんとかなるでござるよ」
「……はぁ、」

なんかもう、馬鹿らしくなり布団を被る。
これが夢かなんかだと、信じたい。
こんな上手い現実、あってたまるか。

あせびは自棄になり、意識を飛ばした。






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あせびは現実逃避しました

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