02/05の日記

22:03
↓続き
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柳梅あせび(13)がるろ剣世界で頑張る話その3






都合のいい夢だと思っていたら、現実だった。
ぬるま湯のような生活、3日目。
未だに現状に慣れない。

「ひょとことべしみ倒して般若退けたってあんたら何者ですか」
「いや、御頭を退けた御主も大概だろ」

もうすっかり毒が引いたらしい弥彦がしげしげとあせびを見る。
好奇に満ちた視線に身動きが取りづらくなる。

恵の方へ視線をむけると、彼女はおはぎを作っていた。

「というかあせびはそろそろ何か食べた方がいいでござるよ」
「丸薬口にしてるから生命維持はできますご心配は無用です」
「食事を取らぬと大きくなれぬでござるよ」
「大きくなりたくもなければなるとも思いませんので」

この剣客は、苦手だ。
というかこの道場の人間はだいたい苦手だ。
唯一敵意を向けてくる左之助に安堵するぐらいだ。

きっと、甘さと優しさに、裏を感じてしまって警戒が抜けないのだろう。
身に付いた性が、壁を厚くする。

ため息を吐いたその時、大量のぼた餅が机に置かれた。
あせびは部屋の隅へ避難し、茶を啜った。

「何朝っぱらから滑稽劇してんでぇ」

そういって阿片片手に登場したのは左之助。
道場の掛かり付け医に阿片を調べさせたらしい。
そして、それは当たりだったわけだ。

「朝飯まだでござろう、どうだ?」

恵が作ったおはぎを剣心が左之助に勧める。
かえってきたのは、憎悪も混じっているような鋭い眼光だった。

「いらねェよ。阿片女の作ったモンなんて嬢ちゃんの料理以上に喰いたかねェ」
「……」

でしょうね。
心の内でだけ同意する。
左之助の反応の方が、普通だ。

ちらり、横目で恵を見る。落ち込んだその目に軽くため息を吐き、腰を上げた。

「んぁ?あせび、どうし――」

弥彦の言葉が途中で切れる。

ぱくん。もぐもぐ。

恵が作ったおはぎを、頑なに何も食べなかったあせびが、食べたのだ。

剣心も恵も薫も弥彦も、左之助も、ぽかんとした表情であせびを見ていた。

ごくん。
なんとか飲み込み、茶を啜る。

「普通に、美味しいですよ。恵さんのおはぎ。偏見は良くないです」

それだけ言って、足早にその場から立ち去った。










「うっぷ……ぅぇえ」

あせびは吐き気MAXで、座布団を抱いてそれをやり過ごしていた。
正直、キツイ。
脂汗を拭い、身を丸めた。

「馬鹿ねぇ。吐いちゃいなさいな」

よく聞いた声に、体が震えた。
その声の主は、恵だった。

「しんどいんでしょう。いいから、吐いてしまいなさい。今の貴方におはぎなんて胃に悪いんだから」
「やです」

背中をする恵にせめてみっともない顔を見せないようにする。
そして、自分は感化されてしまったのだと、心の中で言い訳を連ねた。

「嫌、です。おいしいと思ったのは、本当ですから。苦しくても、いいんです」
「……本当、馬鹿な子」

ことさら優しく撫でてくれる手に、意味もわからず泣きそうになった。

「だったら、私がつくったおじや食べなさい」
「……今は勘弁してください……」
「今夜は食べされるわよ」

ああ、参った。
こんな日々、己には、もったいない。

怪我は大分回復した。
さぁ、夢の時間は、おしまいだ。
ほの暗い決心を元に、吐き気を飲み込んだ。

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