08/31の日記
07:43
利吉の受難(落乱・境界線主♂)ifトリップ先が山田家の近く
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だいたいタイトル通り
トリップ先が山田先生宅の近く
利吉さんが仕事帰りに発見、奥方が看病してくれた
M0時より人間不信に拍車かかってる、かも?
そんな感じ
名前はシオンで固定
利吉は一人、木から木へ飛び移る。
その手には父の洗濯物がある。
母からのお使いにためいきを吐いた。
利吉は山奥の、所謂秘境と呼ばれる所に実家がある。
普段は留守を母に任せ、自身はフリーで忍の任務を請け負い、父は単身赴任で忍術学園の講師を勤めている。
母が一人留守を守っていたその家に、二月程前から居候ができた。
名はシオン。氏はないらしい。正確にはなくした、らしい。
こんな世だ。そういうこともあるだろう。
歳は恐らく十と四か五。利吉よりは年下だろう。正確な歳は教えてもらえていない。
シオンはコミュニケーションを全て拒む為、利吉とまともに会話が成立した回数は片手で足りる。
彼は利吉が実家に向かう途中、重傷を負っていた為家に連れ帰り、母に看病を任せた。
意識がなかったときは良かったのだが、目を醒ましたときからシオンは手負いの獣の如く此方を警戒し近付くことさえも許さずにいた。
食事はおろか、薬、水まで手をつけないためこのままでは死んでしまうとほとほとに困り果てた時、母が口移しで無理矢理薬と水を飲ませた。
大いに混乱しているシオンに母は元くの一で人妻の余裕か「あらあらうふふ可愛いのね」とのたまった。
更には「利吉も小さい頃薬を嫌がったからこうして飲ませたわ。懐かしいわ」とまで言っていたので此方もダメージを負った。
以来、強行手段がでる前にはおそるおそる手を出している。
シオンから利吉に声をかけたのはそんな口移し事件があった2日後の、ただ一度だけだ。
内容は「ここはアクアヴェイルか」と「天地戦争、神の眼、オベロン社、セインガルド。この中で聞き覚えのある言葉はあるか」だ。
先の質問は否定し、後者のは自身の仕事柄情報には敏感だが聞いたことがないと伝えれば彼はそうか、と呟いたきりまた口をきかなくなった。
それ以来警戒されることはとんと減ったが、どこか気力がなくなったようで、目に光がない。
虚ろに空を見上げている為母も心配していた。
恐らく、シオンは必要以上に思い詰めてしまうタイプの人間だ。
どこかで発散すればいいのだがあの様子では無理だろう。
父が担当している一年は組の良い子達のように能天気で考えなしで底抜けの明るさを見習ってほしいくらいだ。
「ということでなんかいい案ないですか父上」
所かわって忍術学園の食堂。
おばちゃんの美味しいお茶をすすりながら恒例の小言を済ませ、彼のことを父に報告した。
「おい利吉待てお前見ず知らずの者を家に連れ込んだのか」
「仕方ないじゃないですか本当に重傷で酷かったんですよ。やっと最近歩けるようになったんですよ。肋バキバキの内臓傷みまくりで最初起きた時吐血してましたあれば驚きました」
「それは…余程酷かったんだね」
利吉の話に眉をひそめたのは父である伝蔵、痛ましそうに顔を歪めたのは父の相方である土井半助だった。
「切り傷に火傷が重なってるような怪我もあったんですよね。拷問でも受けたのかな」
「その人は忍者なのかい?」
「うーん、身軽そうではありますが筋肉の付き方は武士に近いですね。どこかの城の若様あたりが妥当な気がします。持っていたのも立派な業物でしたし」
土井の質問に利吉は自身の推測を交えて答える。
言わないが発見当初南蛮人のような格好をしていたし、何より武器が業物と短刀のみ。
忍者ではないだろう。
「――ふむ。利吉、その子をここへ連れてくるといい」
「え、いいのですか父上」
「構わん。あそこは良くも悪くも何もないからな。若者には多少の刺激は必要だ」
「多少で済みますかねぇ」
土井の言葉に苦笑する。
この忍術学園は個性豊かな面々が揃っているため常に騒がしい。
その上一年は組がトラブルを背負ってやってくるため気の休まる時は少ない。
「ただ、ついてきてくれますかね?」
「医務室に連れて行くことを名目にすればいい。治療はまだ必要なんだろう?」
「はい。何かとしんどそうですね。なのに何も言わないから悪化してそうで怖いですね」
「ははは、善法寺あたりに説教もらいそうだ」
確かに、同年代と会話するのもいいだろう。
口を開くかはわからないが現状を続けるよりはずっと良さそうだ。
「わかりました。ちょっと拉致ってきます」
「普通に連れてこんか」
「いやぁ、私と彼の間に会話などないんですよ悲しいことに」
「……説明はしてあげてからこようね、利吉くん」
土井の苦笑に利吉は曖昧に頷いた。
「斯々然々というわけでこれに着替えてくれるかい?」
将棋の角と鹿のパペットを手ににこやかにいい、利吉のお古を差し出した。
「……」
「いや、うん、ちゃんと説明する。その、なに言ってんだこいつみたいな視線止めてくれないか。心折れる」
場を和ませようと思った小道具が逆効果だったようだ。
雪よりも冷たい視線に利吉の精神力はガリガリ削られる。
その様子に母は微笑ましそうにコロコロ笑った。
「ちゃんとした医師の所へ利吉が連れていってくれるそうよ。因みに夫の勤め先よ」
「よくわかりましたね母上」
「息子の言ってることなどすぐにわかるわ。貴方はあの人に似て単純ですしね」
母が袖で口元を隠しながら笑う。母のことだ、もう何も突っ込むまい。
シオンは溜め息を一つ吐き、馴染みになっていた小袖を脱ぎ始める。
予告のないそれに慌てたのは利吉だった。
「き、着替えるなら着替えると言ってくれ!驚くだろうが!!」
「今更恥じらっても仕方ないだろう」
「!! 母上、シオンと会話が成立しました!!」
「良かったですね、利吉」
「……」
もう何も言うまいとシオンは黙々と着替える。
帯紐を結び、業物――桜花を腰に差そうとした時、母が待ったをかけた。
「髪を結いましょうか。腕を上げるのはまだ辛いでしょう?ほら、座りなさい」
有無を謂わさず座らせ、その髪に櫛を通す。
引っ掛からないそれに母はうっとりと指を通した。
「綺麗な髪ね。少し妬けるわ」
「……」
楽しそうなその声にシオンは何て答えてよいのかわからずに口紡ぐ。
心無し落ち着きのないその様子に利吉は疑問を覚える。
(警戒してるわけではなさそうだが……。髪を結ってもらったことがないのか?)
髪結い処など山程ある上にシオンほどの器量と髪質ならば構われても可笑しくなさそうだがどうにも慣れていない様子。
なんだかそれが微笑ましかった。
「はい、できましたよ。男前だわ」
「……有難う御座います」
にっこりと言われた言葉に最低限の言葉を返す。
その瞳は、困惑に揺れている。
いつもそうだ。
この男はまるで自身が施しを受けるのが赦されないかのような反応をする。
怪我人に対して当たり前の親切に恐怖すら感じている節がある。
忍術学園の保健室に連れ込んだらそれこそ死んでしまうのではないだろうか。
利吉は一抹の不安を抱いた。
それを咳払いで誤魔化し、シオンに背を向けてしゃがむ。
「さ、背負って行くから乗ってくれ」
「……」
その台詞と向けた背を無視して横を通り過ぎる。
普通に歩いているが全治5ヶ月は確かなまだ2ヶ月目の身体だ。
つまり、歩くにはまだ早い。
「ちょっ!?怪我が悪化したらどうするんだ君は!?」
そんな叫びにもなに食わぬ顔で無視し勝手に草鞋を履いているシオン。
もしかして、これは前途多難なのではないだろうか。
勝手に先へ進むシオンに利吉は頭を掻きむしった。
とりあえずここまで。
気が向いたら続き書きます
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