09/15の日記

09:54
↓続き
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利吉さんと忍術学園へ行こう編

名前はシオンで固定







後ろを歩くシオンを盗み見る。
最初こそ彼は先を歩いていたが道など当然わかるはずもなく、ふらふらあらぬ方向へ行く為利吉が先を歩くことにした。

草木を分けて歩く様はどう見ても旅慣れしており、箱入りでなかった事は窺える。

――シオンとは何者なんだろうか

生まれも育ちもわからぬ人間だ。
疑問は当然抱く。

けれど、

「聞けない、よなぁ……」

今も尚彼の身体に残る傷を見れば訳ありだと一瞬でわかる。
加えて彼の性格だ。少なくとも今は話してくれる訳がない。
悪人では、ないと思うのだが。

「……?」

聞き覚えのある声が耳を掠める。
立ち止まると後ろの気配が訝しげな雰囲気を出す。

二人して動きを止めていると今度ははっきり聞こえた。

子供の、叫び声だ。

それの声の主がわかった利吉はシオンに振り返る。
シオンも声は聞こえたらしく顔が険しい。

「シオン、今の声は私の知り合いだ。ここで待っていてくれ!」

返事を聞く前に木へ飛び移る。
まだ治っていないシオンを走らせる訳にはいかない。

木から木へ飛び移り声のした方へ駆けると、思っていた姿があった。

忍術学園一年は組きってののトラブルメーカー、乱太郎、きり丸、しんべエだ。
見れば、山賊に追われているではないか。

「全くあの三人は……」

またトラブルを拾ってしまったのだろう。

軽くため息を吐いて、乱太郎たちと山賊の間に飛び降りる。
次いで先頭を走っていた山賊を薙ぎ倒しその勢いを止めた。

「な、なんだてめえは!!」
「やれやれ、大丈夫か?乱太郎、きり丸、しんべエ」
「あ!!」
「山田先生の息子で売れっ子フリー忍者の」
「山田利吉さん!!」
「はは、紹介ありがとう」

賊の戸惑いの叫びに、乱太郎たちの嬉しそうな紹介で爽やかに笑う。

まだ残っている山賊に鋭い視線を投げ、乱太郎たちを背に庇う。
山賊は殺気立っている。

「ここで引けば見逃そう。退いてくれないか」
「ふざけんじゃねぇ!!その餓鬼どもは俺らをこけにしやがったんだ!!ぶっ殺してやる!!!!」

唾液を飛ばしながら目を血走らせ、鬼のような形相で殺意を振り撒く。
これはどんなに言っても話を聞いてもらえないだろう。

「乱太郎、きり丸、しんべエ。下がっていろ。何もするな。いいかい、くれぐれも、何も、するな」
「「「はぁーい」」」
「よろしい」

気の抜ける大きな返事に苦笑する。

恐れも緊張感もないそのやりとりに盗賊は更に苛立ったらしく、刃こぼれした刀を見せ付けるように構える。
それに対し、利吉は使い慣れたクナイを手にした。

ひたすら罵声を浴びせながら襲いかかってくる賊を確実に武器を弾きながら沈めていく。
躍起になってかかってくる者もいれば、敵わないと察して逃げる者もいる。
利吉はとにかく賊を減らして言った。

それを見る乱太郎たちはキラキラと目を輝かせる。
利吉の姿はさながらヒーローに見えることだろう。

「さっすが利吉さん!」
「凄いね〜」
「安心したらお腹すいちゃったぁ」

もうすっかり安心して観戦する三人。
賊の相手ももうすぐ終わる、その時。

乱太郎たちの後ろの草木が、音を立てた。

「「「え?」」」


「死ね餓鬼ども!!」

振りかぶられた刀、血走った目。
それは逃げたと思って見逃した山賊だった。

「しまった!!」
「「「うわぁああ!!」」」

最後だと思っていた山賊を薙ぎ倒す。
だが、三人を襲う山賊には多分、間に合わない。

それでも間に合えとクナイを投げようとしたその時だった。

「喧しい」

――ドゴォッ

「がふっ!?!?」

涼しげな声で、その体の倍の体積ありそうな巨体を蹴り飛ばす。
その姿は、最近見慣れたものだった。

「――シオン!?」
「……」

相変わらず返事がない。
シオンは利吉を見やり、その周りにいる山賊を眺め、最後に呆然としている乱太郎きり丸しんべエを見た。

そして再び、利吉に視線を寄越す。

「……はッ!」
「何故今私を見て鼻で笑った!?」
「餓鬼ども、怪我は」
「いい加減私とまともに会話してくれないかい?」

明らかに馬鹿にした様子のシオンに眉根を下げ訴えるも彼は気にする所か三人へ話かける始末。

短いシオンの言葉に反応したのは乱太郎だった。

「だ、大丈夫ですっ!ありがとうございました!!」
「お兄さん、利吉さんの知り合いっすか?」
「いや、他人だ」
「なっ!?2ヶ月も共に過ごしておいて他人とはどういう了見だ!!」
「……利吉さんああ言ってるっすけど」
「他人だ。それより」
「うぎゃっ」
「あたっ!?」
「ふぇっ」

頑なに他人宣言するシオンに三人が顔を見合わせていると、シオンの細い指が順に三人の額を弾く。
要するにデコピンされた三人は額をすり、シオンを見上げた。

「な、何するんですかぁ〜」
「今回貴様らは悪運強かっただけだ。声なぞ、届かんほうが多い。自分の身くらい守れるようにしとけ馬鹿者どもめ」
「いちち、でも、お兄さん助けてくれたじゃないっすか」
「偶々だ、ど阿呆」

唇を尖らせるきり丸に呆れたような視線をやるシオン。
しんべエはこっそり、乱太郎にこの人怖いね、とこぼした。
乱太郎は、なんと返していいかわからず、曖昧に笑った。

そうしていると利吉はシオンの傍に寄り、その腕を掴んだ。

「……」
「シオン、手を貸してくれたことに礼は言うが…君は大丈夫なのか?」
「……」
「シオン!!」

まるで話すことなどないと謂わんばかりに利吉から腕を振り払う。
それでも利吉は、彼を逃すつもりはなかった。
再度掴んだ手首にシオンは嫌悪感を表した。

「そんな顔しても駄目だ。本来君には歩くことすら制限したいんだ。なのに待たずに追いかけてきて、ましてあんな激しい動きしたら……」
「あの、利吉さん。シオン?さんはどこか悪いんですか?」

困ったようにこちらを見る乱太郎に利吉ははっとする。
少なくとも、自分よりは説得に効果あるだろう。
ならばこちらに引き込み、共に説得して貰おう。
保険委員である乱太郎なら、利吉側についてくれるはずだ。
利吉は乱太郎の問いに頷いた。

「ああ。こう見えてもシオンは――」
「余計なことを言うな」

怪我のことを言おうとした時、殺気すら籠った目とドスの効いた声に利吉は思わず閉口する。
少し険悪になったその空気を割ったのは、またもや別の声だった。

「くぉらお前達!!こんなところにいたのか!!さっさと学園に――ってあれ利吉くん?」
「土井先生」
「「「うわぁああん土井せんせぃ〜」」」
「うわっ、どうしたんだお前達!!」
「まぁかくがく然々でして」
「なるほど」

腰にひっつき虫になっている三人の代わりに利吉が説明をする。

それに土井は苦笑し、軽い謝罪をした。

「すまなかったね、ありがとう。それで――その少年が例の子かい?」
「はい。シオンです」
「そうか。私は土井半助。この子達の担任をしている。体は大丈夫かい?」
「……」
「ははは、聞いた通りの子だな」

土井を鋭い目で睨み付けた後利吉を睨む。
どちらも気にせず軽く笑うものだからシオンにイライラが募る。

苛立っていると、利吉は素早くシオンを引き、背負う。
ごく当たり前のようにおぶられ、シオンは暴れようとする。
が、軋むような、断続的な鋭い痛みに息をのむと、利吉がため息を吐いた。

「やっぱりな。そもそも、まだ歩けるような身体じゃないだろう。忍術学園まであと少しだ。我慢してくれ」
「、」
「シオンさんどうしたんですか?」
「お腹すいたんですか?」
「体調悪いんですか?」
「ああ、らんきりしん。大丈夫だから早く学園へ行こう」
「そうだぞお前達。遅刻してしまうぞ」

土井が三人の背を押す。
多分、シオンに配慮したのだろう。

「さぁ、学園へ向かうぞ」
「「「はぁーい」」」

相変わらず、シオンは利吉に言葉を発しようとしない。

「おいシオン」
「……」
「君は、さっき、声は届かないほうが多いと言ったね」
「……」
「その通りだ。助けてもらえるのなんか稀だからな」
「……」
「でも、」

シオンは相変わらず背で息を詰め、恐らく堪えている。
ただ一言も、言えないまま、堪えている。
けれど、それでは、嫌なのだ。

「私は今、君の声が届く所にいるよ」
「……」
「君が言葉を発すれば、どんなに小さい声だって拾える。いいか、シオン」
「……」
「君の声は届くよ。少なくとも、私には」
「……」

痛みとは別の意味で、息を詰める。
そんなものはいらない。
自分が欲しかったものはすでに、もう、ないのだから。

「煩い。貴様に届いたって仕方ない」
「……うん」
「聞いて欲しいのは貴様じゃない。……貴様じゃ、ないんだ」
「そうか」

守りたかったものも守りきれぬまま、死ぬことすらままならず、罪滅ぼしすらできない。
ただ一つの願いすら叶えられぬまま、こんな所で燻っている。
もう、どうしたらいいかわからなかった。

「何故捨てない。まともに言葉を交わそうとすらしてないような無礼者だぞ」
「ふふ、お兄さんは面倒見いいのさ。というか、自覚あったのか」
「……」

利吉は確信する。
やはり、この少年は悪人ではないと。
ただ、酷く不器用なのだ。
きっと、もうずっと一人で歩いてきてしまったが故に、ねじまがってしまっているのだ。

「まぁ、矯正は必要だなとは思ったけどね」
「直らん」
「どうだか。途中からでも添え木あれば結構どうにかなるもんだよ」

見捨てないし、聞こえぬふりもしない。
この少年を見守ろうと、今決めた。

「で、痛みは?」
「ない」
「………君も大概意地っ張りだな」

呼吸が相変わらず短い。
多分先は長い。

それでも私達は、ここから始めるのだと、利吉は背にあるそれを持ち直した。









やっとまともに心開き始める

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