09/26の日記

14:54
境界線♀if(九澄大賀友情エンドルート)
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珍しく境界線主♀←
大賀ルート

名前は紫苑、ミリアで固定

時期は第一回魔法試験後くらい。
こういう展開もありだったなーと今さらに思いましたので。







九澄大賀という男はとことん、自分の癪に障る男だった。
紫苑のことを理解したい、ちゃんと友達になりたい、などと言って構い倒してくるその様は実に腹立たしい。

魔法試験が終わってから、様子がおかしいと問い詰めてくる。
自覚があるぶん、余計に苛立つ。

きっと、口先だけなんだろうと思った。
だから、醜い真実を見せてやればきっと近寄ってこなくなると思った。

「なら、知ってみるか?」

プレートを出し、目の前に突きつける。
すると大賀へ流石に戸惑ったのか、そのうるさい口を閉じた。

「紫苑?どういう……」
「お前が俺になる夢を見せてやる。今まであったこと、全部のだ」
「んなことできんのか?」

大賀は過去を知るより、魔法の方に興味を示す。
紫苑はくらい眼をそのままにプレートを大賀の額に押し付けた。

「ああ、せいぜい失望するといい」
「――え…?」
「己はしっかり保っておけよ。じゃあ――良い悪夢を」
「紫苑――?」

大賀の瞼がゆっくり落ち、床に崩れる。
紫苑はそれを無機質な瞳で見下ろした。

椅子に腰をかける。
そしてゆっくり、息を吐いた。

きっと、過去という夢が終われば、彼は側から消える。
だが、それでいい。
自分には、荒野に一人くらいが、丁度いいのだ。

大賀を一瞥した後、頬杖をつき、目を閉じる。
とても静かな空間に、なんとなく胃が重く感じた。






それから数時間後、自動的に魔法解除され、プレートが紫苑の手元に戻る。
紫苑は椅子の方向を大賀の方へ変え、彼を見下ろす。

大賀は虚ろな瞳を紫苑に向ける。
それからすこし、警戒してように眉根を寄せた。

「俺…?いや、貴様、何者だ。これは一体、」
「……やれやれ、見事に呑まれてるな。この大馬鹿者め」
「なっ…っだ!?」

大賀の口から出たのは、彼らしからぬ口調。
それは、紫苑とほぼ同じものだった。

感受性の強い大賀だから、紫苑の記憶がまるで自分の記憶のように感じているのだろう。
そんな大賀に紫苑は鏡を投げつける。
それは見事に大賀の額をぶつける。

それに怨みがまし気に睨み、顔をのぞかせる。
すると大賀は目を見張った。

「これ、は、」
「俺は紫苑。正しくはシオン=マグナス。先程のは俺の夢。さぁ、お前の、現実(ほんとう)の、名は?」

大賀が息を飲む。
瞳に焦点が戻り、本来の彼に戻っていく。

「俺、は……俺は、九澄大賀、」

ゆっくり吐き出すようなそれに紫苑は口に弧を描く。

「そうだ。お前は九澄大賀だ」
「あ――」

大賀がひゅ、と息を吸った瞬間、彼の双眼から大粒の滴が溢れる。
何の前触れもなく、溢れ出されたそれに、紫苑はぎょっと目を見張った。

「いきなり何泣いている。確かに、気分は良くなかっただろうが、そんな」
「ちがっ、俺っ」
「なんなんだお前は!」

最初は音もなく泣いたのにだんだんしゃっくりを上げ、鼻水も出す始末。
仕方なく椅子から離れ、その顔にハンカチを叩き付けるように押し付ける。
それでも止まらずそのハンカチは重みを増していく。

まさか、これほどのことになるとは思いもしなかった。
知らず知らずため息が出る。

「情けない顔だ。このままだと醜男になるぞ」
「てめっ、これ、は、なぁ!ズッ俺のじゃないっんだよ!!」
「どう見てもお前が泣いてるだろうが」

大賀が怒りすら滲むように訴えるのを一蹴する。
だが大賀はそれに異を唱えた。

「違う!!」
「おい、」
「俺じゃない!苦しかったのはっ、辛かったのはっ、!」
「、」
「ミリア!!お前だろっ!?」
「――」

言葉を飲み込むのに、時間がかかる。
大賀が言っているのは、まるで、

「……汚い面だ」
「あ゙あ!?」
「貴様は、」
「なんっだよ」
「これが、まるで俺の涙のように言うのだな」

ハンカチがずっしり重い。もうそろそろ役目を果たしてくれなくなりそうな程に。

「そう、言ってんだよ。珍しく察しわりぃな」
「ああ、本当に汚いな」
「聞けよ」

布に溜まる涙。
この重さが、自分のものだというのならば、これは、何処に消えたのだろう。

「そうか」
「、?」
「これが、本来あるものだったのか」

泣き方など、とうの昔に忘れてしまっていた。
その分の歪みが、ここに現れているのだろうか。

「そうだよ。なんっで俺が泣いてんだよ!!これ超苦しいんだからな!!」
「、すまん」
「〜〜ッだから!!」

未だに止まらないそれを大賀自身の袖で拭う。
ぐちゃぐちゃでもう見れた顔ではない。
が、何処か惹かれる姿だった。

「なんつーか、シオン=マグナスは死んだんだろ。だったら、ミリアは、幸せになろうぜ。そんな割りきれるモンじゃねーだろーけど、もう、」
「大賀?」
「苦しまなくていい、と思う。兄さん、お前には優しかったじゃん。多分、顰めっ面のままよりは、お前、笑ってた方がいーよ」

大賀がミリアの手を握る。
お互いその手は涙で湿っている。

「だが、赦されない。そんなの、」
「いいや。お前の兄さんはこう言いたかったんだよ<一人で荷物背負って潰れんのは赦さない>って。あの人も、お前と同じで、お前に、幸せになって欲しかったんだよ!!わかれよそんぐらい!!」

その言葉に目から鱗が出た気分になる。

それは、知っていた。
だが、理解はしていなかった。

一粒の滴が、ミリアの目から溢れた。


「そうか」
「おう」
「でも、」
「ん、?」
「覚えていても、いいだろうか」

二粒目、溢れる。

「いいに決ってんだろ。お前の重荷になんないなら」
「そうか」
「おう」
「そうか」

すとん、と何かが落ちる音がした。

きっと、これからも悩むだろうし苦い思いもなくなりはしない。
けれど、折り合いは、つけれそうだ。

「次は、笑い方でも思い出せよな。手伝うから」

荒野でもないこの世界で、隣に笑う人がいる。
それだけなのに、なんでもできる気がした。











大賀ならきっと紫苑を救ってくれるはず

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