06/08の日記
16:36
↓続き
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前回の続き
追っ手を全て撒き、所は裏裏山の中腹。
この辺りまできてしまえばもう学園のテリトリーであり、地の利は完全に此方にある。
よほどのことがない限りは平気な場所だ。
それでも、三人が三人とも緊張を解くとこはなかった。
言わなければいけない。そんなことはわかっている。
それでも、まだ少し怖かった。
どう思われてもいいなんて、嘘だった。
やったことに後悔はなくとも、忌み嫌われるのは、やはり嫌だった。
でも、もうそんな事は言っていられない。
学園に着く前に、言わなければ。
そう思っていたところ、急に足場がなくなる。
そして、一瞬の浮遊感。
派手な音と共に、紫苑は蛸壺へと吸い込まれた。
「いっ…、綾部のやつ、こんなとこにも掘っていたのか」
なんとか収まりのいいところに身体を動かす。
寧ろ、これは好都合だろう。
踏ん切りが着いた気分になり、溜め息を一つ。
このほうが、都合がいいかもしれない。
「おい、何してんだ」
上から降ってきた、呆れた声の文次郎のそれに此方で初めて涙した時を思い出す。
確か、あの時もこんな月のない夜だった。
「おーい、紫苑。怪我ないか?どれ、手を貸せ」
すっと手を出された気配がする。
声からして三郎のものだろう。
紫苑はそれを無視し、口を開いた。
「先程、俺が使ったのは唱術といいます」
紫苑の切り出しに、二人の空気が変わる。
それを気にすることなく、紫苑は続けた。
「俺がいた所では、極稀にいる資質を持ったものが、世界に六本しかない意思を持った剣と契約することで発動出来ます。が、俺は少し特殊でして。研究の成果で俺はその剣を使わずともその唱術を使うことが出来ます」
「……」
二人は沈黙を守ったまま。
紫苑は少し口早に言を進める。
「エネルギー体が此方にはないものなのでこの術は此方にはないものでしょう。それだけははっきりしてます。それを扱う俺が、どれだけの脅威になるかも、理解しています」
口が渇く。
でも、もう、覚悟は決めたのだ。
「ですので、俺の処置は、お二方にお任せします」
蛸壺に嵌まった状態の自分。
処分するには、とても楽だろう。
紫苑は、自分の膝を抱いた。
知っている。
兄とマリアン以外、受け入れてくれる人などいないことを。
少しだけ、夢を見てしまっていたことも。
大丈夫。
崖に落ちた、あの時来ていた“終わり”がここまで延びていただけだ。
「……てめぇは何してやがる」
少し苛立ったような声と共に、蛸壺に降りて来た文次郎。
直接、手を下すのだろうか。
武器を投げ入れられることを想像していま紫苑はせめて、首を切り安いように頭を上げる。
目線は上げる勇気はなかった。
「う、わ!?」
「何勝手に死にそーな顔してんだ!!高々蛸壺に落ちただけだろーが!!そもそも任務に油断するとは何事だ!!」
ぶつくさ大声で叱咤しながら文次郎は軽々紫苑を持ち上げ、蛸壺から脱出する。
もしかしたら、尋問があるのかもしれない。
それもそうだ、こんな得体が知れないもの、処分して終わりなんてあり得ないだろう。
さっきの言葉は、自分に都合良く考えてしまっただけだ。
普通に、接してもらえるなんて、そんなこと。
「おい鉢屋!怪我はどうした」
「はぁ?ちょっとかすっただけですし。毒とかくらってませんし。いやー落雷とかラッキーでしたねー」
文次郎の問いに、白々しく答える三郎。
これは、まるで。
「そうだな。任務とはまさかで成り立っからな。そんなこともある」
「もうけもんでしたねー。な、紫苑?」
「え……」
まるで、紫苑が何もしていないような振る舞い。
もしかして、これが、二人の答えなんだろうか。
文次郎は最初のコンタクトのときのように、紫苑を抱き、目を合わせる。
その不敵な笑みに、自分に対する恐怖も侮蔑もなかった。
「後輩守るのが先輩の役目だ。お前は何も心配しなくていい」
「……いいん、ですか」
「おーい、紫苑。先輩の顔は潰すもんじゃないぞー」
「なっ!?」
三郎が乱雑に紫苑の頭を掻き混ぜる。
頭巾がほどけるほどの力に紫苑は思わずその手を叩きおとす。
すると三郎はへらりと笑って軽く二度ほど紫苑の頭を叩いた。
「そんぐらい反抗的な態度のほうがお前らしい。膝抱えて震えて泣くなんて止してくれよ」
「泣いてないっ!!」
「震えてはいたがな」
「〜〜〜っ!!」
二人の言葉に顔を赤くしてわなわなと震える。
「先程の機会逃したことを後悔させてやる……っ!!」
「わ、馬鹿もん暴れんな!!」
「おっにさんこっちら、手の鳴る方へー♪」
「――混濁に沈め!憤怒の撃鉄…」
「まてまてまて!!お前何する気だ!?」
「悪かった!!私が悪かった!!」
新たに詠唱に努めようとする紫苑を慌てて止める二人。
実のところ、この詠唱はピコハンなので殺傷力はほぼない。
慌てる二人が面白いのか、認めてくれたのが嬉しかったのか。
紫苑はその顔に笑みを浮かべた。
「次はないぞ」
そうして、忍術学園で朝を迎える。
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