Poke-mon

□この手の中にあなたの命
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一くくりに結んだ桔梗色
そこから覗く滑らかなライン



それを見ているとたまに思う


……殺したいと






「兄貴、髪おろさないのか」

「え?」

脈絡のない問い掛けに間抜け面で振り返った兄貴が不思議そうに俺を見る

「なんで?」

「なんとなく」

「おろさないよ。だって邪魔だもの」

「じゃあ切れよ」

「切ってるよ、たまに自分で」

「床屋行け馬鹿」

「いきなり酷い暴言だなぁ」

反抗期だなぁシンジ、とかまたへらへらと笑う兄貴
だからその笑い方嫌いだと前にも言っただろうが、馬鹿


そんなこと思っている俺の横を少し強い風が無遠慮に駆け抜けていく

「……っ……」

少し乱れた髪を手櫛で欝陶しくないように整えるともう一度兄貴を見る



「…っ…酷い風」

小さく溜め息をついた唇が億劫そうに呟いて乱れた髪を掻き上げた

ぱさりと揺れる桔梗
指先で払った髪の間に垣間見た肌の色
薄く浮き出た静脈の色


背筋に甘い痺れが走る






「………っ……シンジ」

「………」

「いたい…よ」

みずみずしい緑の上にぱさりと広がる紫
感情の篭らぬ眼差し

首筋に食い込んだ俺の指先


とくとくと振動を伝えるそれは兄貴の命の音
指紋にじわりと滲むのは兄貴の生きている体温


それが全て俺の手に委ねられている

今兄貴を殺すも生かすも俺の指先ひとつ

俺が力を込めれば、兄貴の命の灯はたやすく消える




そう考えただけで言いようのない興奮が沸き上がってくる


「シンジは……おれを、ころしたい?」

「あぁ、殺したくなる」

「……そっか」

嫌だ、とかやめて、とかはなかった。ただ俺のその言葉を、すとんと受け止めた
そんな感じだった


「じゃあ…いいよ。…ころされてあげる」

そう言って兄貴はそっと微笑んで目を閉じた

その瞬間、胸の奥に沸き上がったのは言いようのない恐怖だった


俺は首を絞めていた指を離してそのまま顔面へと思い切りたたき付けた


「〜〜〜〜っ〜〜!」

ばちん、と非常にいい音がしたので相当痛かったのだろう
叩かれた箇所を押さえた兄貴が芝生の上で表現しようのない呻き声を上げて悶絶していた

「………シンジ、いたい、ってばぁ……」

「ふん」

涙目で俺を見上げる兄貴が恨めしそうに言った


「シンジはさ……結局どうしたいの?」

「………知るか」



そんなこと聞かれたってそんなの俺の方が知りたい位だ



兄貴を見てると殺したい
けれど兄貴がいなくなるのは嫌


死んだらいなくなるのに酷い矛盾だ


どっちだよ。俺は兄貴をどうしたいんだろう



「わかったら教えてよ」

「なんでだよ」

「約束だよ」

「人の話聞け馬鹿」

「シンジ、大好き」

「……………………………………………ばぁか」





殺したくて
生かしたくて


きっと俺は兄貴の命が欲しいのだと、今はそれで納得させることにした





おわり?






ほしいのはあなたのすべて


できっこないからよけいにほしくなる


きっと、そういうもの








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