Poke-mon
□その眼差しの先に
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貴方の目が見つめる先には何がある?
ポケモン、トレーナー、挑戦者、そして……
「あれは判断ミスね」
一つの試合が終わった時、彼女は溜息のようにぽつりと呟いた
傍らでアフタヌーンティーの用意をしていた私は表情を面に出さないまでもその鋭い洞察眼に感嘆をもらした
それは傍らで自分も見ていたからわかる、先程負けた挑戦者のことだ
あと数回勝ち進めばフロンティアブレーンである自分とのバトルをする筈だった程の実力者だった
だが彼は勝ちを焦るあまりに土壇場で采配を誤った。ほんの些細なそれではあるが相手はその隙を見逃さず、その結果一気に形勢を逆転され負けてしまった
今まで気の遠くなる時間を他人のバトルを見るということに費やしてきた彼女、知識を貯え、様々な戦略を頭に留めていく彼女にポケモンを与えたらどうなるのだろう……
そんな好奇心が頭を過ぎる
「コクラン。手が止まっててよ」
「は…申し訳ありません。カトレアお嬢様。今日は如何いたしましょう」
「今日はミルクを多めに砂糖を少なめに」
「畏まりました」
言われた通りに用意したものを差し出すと彼女のまだ幼さの抜け切らない美しい手がカップソーサーを受け取り紅茶を口へと運んだ
たったそれだけの動作にも彼女の気品は溢れんばかりで、私は性懲りもなくまた意識を本来あるべきではない場所へと持っていってしまう
それに気付いたらしいお嬢様がくすくすと笑みをこぼしながら言った
「今日はぼんやりしていることが多いのね。コクランともあろうものが…珍しいわ」
「も…申し訳ございません」
「私も少し退屈よ。だって今日はコクランが戦っているのを見ていないのですもの」
「は…はい」
「確かに強い者は沢山いるけれど……私は貴方の戦いを見るのが一番心躍るの。何故なのかしら」
まるで期待を一身に受けているということを錯覚させる言葉に眩暈を起こして倒れなかったのは奇跡かもしれない
だがポットを手にしたままのそれはカタカタと震え頬は仄かに高揚で紅に染まっていた
「こうして何百何千の戦いを見てきた今ならわかるわ。貴方の戦いには隙も無駄のひとつもない。…美しいのよ」
「…っ…勿体なきお言葉です」
「貴方はその言葉を受けるに相応しいのよ。もっとしゃんとなさい」
その時、受付の方から新たな挑戦者がやってきたことを告げる呼び鈴が鳴った
「今度は貴方まで辿り着けるのかしらね。楽しみだわ」
「えぇ、それでは参りましょう。カトレアお嬢様」
テーブルに置かれた空になったカップを片付け、彼女の身支度を整える頃には私はいつもの表情を纏うのだ
この城に彼女に仕える執事としての顔に
見つめ続ける彼女の期待に応えつづける為に
おしまい?
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