Poke-mon

□お姫様は篭の中
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「外に出たいわ」


それは彼女の思い通りになるこの城の中で数少ない彼女に出来ないこと


「申し訳ございません」

この状況がくることは既にわかりきっていたのでコクランはお決まりの言葉を返す



カトレアはバトルキャッスルの主であるが故にここから出ることは許されない。常ならばこの世界では10歳に達した時点でポケモンを持ち、自由に旅をすることが出来る

常ならば…




だがそれは普通の家庭の話であって彼女はそれには当て嵌まらないのだ
生まれながらバトルキャッスルのオーナーの娘として生まれた彼女には


その事は彼女自身が一番よく理解している。だが、たまにこうして発作のようにこのようなことが起こる
彼女が丁度彼女と同じ歳位のトレーナーを見てしまった時に



「私も皆と同じようにポケモンを持って旅に出たいわ!ここではない世界が見たいの!ねぇ、コクラン…」

「お嬢様…」



愛しい主の懇願だ
出来るものならば叶えてやりたい

だが…彼はあくまで執事であって、彼女の身の回りのことは整えられてもこうして彼女にとっての願いの一つも満足に選ばせてやることは出来ないのだ

「お嬢様は、皆とは違うのです。貴女様はこの城の主、それを…「なら、いらないわ!お城などいらない!コクラ……っ?!」


言葉は最後まで形にはならなかった。自分ではない温もりが、腕が、確かに彼女を抱きしめていた


「カトレアお嬢様…っ」

「コ…コクラン?」

名を呼べば応えるように抱擁の腕に力が入る

父親ではない大人の男性のそれにカトレアの頬に熱が集まった


「どうか…どうかそのようなことをおっしゃらないで下さい。城を、私を貴女に否定されたら……私は生きる意味を失ってしまう」

「……っ…」

「貴女こそが私の全てなのです。この城が貴女の世界であるのと同じように、私にとっての世界は貴女そのものなのです」

「…私が世界の全てだというのなら、貴方の世界はあまりに小さいわ」

「構いません。私にはそれこそが幸福なのです」

言いながらするりと抱擁を解くとコクランはその場に跪づき彼女の左手をとるとその手の甲に唇を押し付けた

「…コクランは狡いわ」

左手の甲にそっと唇を寄せてからカトレアは溜息混じりに呟いた

「いつだって私を連れて逃げようとは言ってくれないんですもの」

「申し訳ございません。ですが…」

「…?」

「貴方の世界を守る為ならば私はいかなる危険をも恐れません」

「…本当に狡いわ貴方は」


唇から零れたのは憎まれ口
けれど彼女の表情は少し困ったようなそれでいてはにかんだようなそれだった


「そんなふうに言われたら、もう逃げられないじゃない…!」





囚われることを望んだのは一体どっち?




おしまい?

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