Poke-mon
□桃色的時限爆弾
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日が落ち、市街から離れていてネオンのとどかないこの場所星空と上弦の月だけが光を与えてくれるこの中庭に重い沈黙が落ちる
微かに怯えるようなポケモン達の鳴き声が静寂に混じるがまたキン…と張り詰めた空気に消えてしまう
そうしてどれくらいの時間が経っただろう
「……あ」
「む?」
ボールを構えたままぽかんと口を開けて空を見上げたレイジを彼は訝しげに見た。その次の瞬間、すぐ後ろが明るく照らされその数秒遅れてドン、という爆発音が辺りに轟く
振り返るとそこには夜空を彩る大輪の花が漆黒に溶けていく様が見えていた
「花火……始まったんだ」
「花火…?」
「え?花火知らないの?」
「必要がない知識は教わらない。無駄だからな」
「じゃあ今日トバリでお祭りがあるのは?」
「何だそれは?」
「それじゃあ君はどうしてここに来たんだい?」
あれほど時間があったのにこちらに敵意を向けてくることも、ポケモン達に手を出すこともしなかった
ありえないとは思ったけれどひょっとして祭りに来ただけかもしれないという線も考えてみたがやはり違うらしい
だったらどうして彼は再びこの街にやってきたのだろうか?
「君は一体……」
言いかけた言葉は次に上がった花火の音に掻き消された
そしてその音に弾かれるようにレイジの方へと走ってきたポケモン達はそのまま彼の脇を通り抜けて置きっぱなしだったポフィン皿の方へと向かっていく
「あっ、こら…ちょっとお行儀悪いよっ」
慌てて駆け寄ってそれを取り上げるが時既に遅く、あれほど沢山乗っていたものは殆ど彼等に持って行かれてしまっていた
上機嫌で草むらに転がって各々好きな味のポフィンにかじりついている彼等を苦笑しながら見下ろすと「今日だけだよ」と釘をさした
その様子を少年は信じられないといった表情で見つめていた
「言うことをきかないならばきつく仕置きせねばならないのではないか」
「悪いことをしたら叱るのは大事だけど、少しくらいは許してあげないとね」
「……お前は甘過ぎる」
「そうかい?」
「だがバトルの腕は確かだ」
「………どうも」
先程からどうにも話が見えてこない。自分のポケモンへの接し方などが一体彼に何の関係があるというのか
そんなことを思っていたレイジに彼は静かに問うた
「お前は、今の世界に満足しているか?」
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