Poke-mon
□右肩に紫蝶々
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しかし育て屋は踵を反すと入口へと駆け寄り取っ手に手をかけていた
ガチンという噛み合った金属音が耳障りに響く
しかしそれにも関わらず彼は何度も何度もそれを繰り返す
「……開けて」
「何故?」
「いいからはやく開けてくれ!」
「もう遅い。間に合わない」
「なら君が止めさせてくれ!」
「断る。そんな願いはきけない」
「何故?!」
「私には必要がない。そして直に君にも必要がなくなるものだからだ」
「そんな勝手な…っ」
悲しげに歪む紫電の瞳。僅かに揺らいだ光は涙に滲んでいつもよりもきらきらと輝いて……とても綺麗だった
私はポケットからカードキーを取り出して扉の傍らにあるリーダーにそれを宛てた。そしてゆっくりと下へと滑らせてロックを外した
開いた扉から彼の身体が廊下へと勢いよく飛び出していく
ばたばたと遠ざかっていく足音は彼の家の方向がよく見渡せる窓の前でぴたりと止まる
その背中を見つめながら私はゆっくりとその後に続く
もう彼は逃げない。私にはその確信があったから
彼の横から窓の外を覗き込む。
その視線の先には赤い炎に食い尽くされ黒煙を上げる建物があった
思ったよりも景気よく燃えたものだ
あの勢いならば例え消防隊が束になろうとも跡形も残りはしないだろう
私はまだ外を見つめたままの彼の肩に手をかけた
「……触らないで…!」
「育て屋…?」
あぁもう彼は育て屋ではない。今度からは名前で呼んでやらなくては…そんなことを考えながら構わず彼に触れると
間髪入れずぴしゃりと彼の手が鋭く私のそれを振り払った
「触るなと言っているんだ」
「何故怒る?レイジ…」
「何故…?!君がそれを聞くのか?!」
彼が怒っている。それはわかっている
何故?それがわからない
どこかへ行こうとする彼の腕を咄嗟に掴んで引き留める
何処へ行こうというのか。もう行くところなどないというのに
「何処へ行くつもりだ」
「決まっている、帰るんだ」
「帰る場所などないだろう」
「何処だっていい……少なくとも此処にいるよりはマシだろうからね!」
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