Poke-mon

□Little world
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《R》



冷たい部屋の中
他者の温度のない世界


一日の大半はそこで一人で無駄に消費される

窓のない部屋
日の光も時計の針さえないそこはまるで時間が止まったかのような錯覚さえ起こしそうになる

かといって大した用もないのに無駄に動き回るのも嫌だ
元々自分は無駄が嫌いな質なのだから

昔そのことがバトルにも反映されてしまってジンダイさんに咎められた記憶がある
けれどそうするのは元々の自分の性質であり狙ってそうしているわけではない

それを変えなければ勝てない、それがわかった時俺は挑戦を止めた。否、無理だと思った
人が身体に染み付いた癖を直すのに最低でも十年はかかると言われている
変わるかどうかもわからないことに十年かける位なら後から来た自分にはない性質を持つ人間に道を譲ってしまった方がはやい。…それが俺にとっては丁度シンジだったわけで

だから俺はトレーナーを辞めた


そして育て屋になった
ただ一つ、シンジの為だけに


実際俺がそれになったことでシンジには多少の貢献にはなっている……と信じたい



だがシンジは旅立ってしまった。ホウエンに行くと言っていたっけ

あんなに遠いのではおいそれとポケモンのやり取りをするわけにはいかないから俺の仕事の大半はその時点で意味をなくしてしまっていた

そして更にその後突然不自然な程に客がぱたりと途絶えた

丁度川が何か大きな石でせき止められたように



今思えばあれは彼がそうさせていたのだろうことがわかる


ここに来て俺が帰ると言う度に彼はひどく打ちのめされたような、それでいて憎悪さえも感じられる眼差しで俺を見ていたから
そういえば買い物行った時の店員のおじさんの不憫そうに俺を見る視線もそういう意味だったのかもしれない
「厄介なものに目をつけられたんだな」と



そしてそれらを軽視していた俺はこうして全てを失ってここにいる
あれだけ激しく燃えてしまってはもはや無事なものもないだろう

お金も洋服も家具も沢山書き溜めたレシピノートも
俺が未練がましくとっておいたジムバッチもシンボルも

みんなみんななくなってしまったのだ


人間て本当にショックだともう涙も出ないんだって、その時初めて知った





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